> この花をくれたのは-2



「全然違いますよー」
「そうそう」
迷子二人はしれっと答え、その背後で腰に縄を巻いた作兵衛がぜえぜえ息を整えている。また迷子になってたのか。
「だいたい、その時俺達裏山にいましたから」
「あれ、裏々山じゃなかったか?」
「お前達がいたのは裏々々山だッ!」
――ごめん作兵衛、のんびり昼寝なんかしてて。
三年ろ組の三人が騒いでいるのを眺めていると、おーいと声を上げて、藤内と数馬がやってきた。
「三人ともー、作戦成功だって……あっ、夢野先輩!!」
二人はあからさまにまずい!という顔をした。なんでだろう。
「なぁに、その顔。作戦って?」
「い、いえ先輩には関係ないです!」
藤内にはっきりと言われてしまった。
そう言われると気になるな、と思っていれば、作兵衛が慌てたように言った。
「ああ、先輩!もしかして四年生じゃないですか!?先輩、タカ丸さんとは仲良いし!ほら、平滝夜叉丸先輩とか、花のこと詳しそうでしょ?」
それはあれか、背後によく薔薇を背負うからか。

* *

なんか、すごく流されている気がする。
こりゃあ、四年生のところに行ったら、今度は『五年生のところへどうぞ!』とか言われそうだな。

* *

「ふふふ、確かにこの滝夜叉丸、花を愛でる教養も人一倍あります。先輩が今日誕生日であることも、素晴らしい情報収集能力によって、勿論聞き及んでおりますよ!しかし申し訳ない、その犯人は私達四年生ではありません。ああ勿論犯人が誰かは知っていますよ、お答えはできませんがね!では大方今までの流れで予想はついておられるでしょうけど、五年生のところへどうぞ」
「随分あっさりだね!」
思わずつっこむと、滝夜叉丸は首を傾げた。
「あっさりとは」
「いや、今までの他の学年はさあ、一応ちょっとお喋りしてきたわけなんだけど。君に声をかけて質問したら、自賛混じりに受け流されて俺はびっくりしたよ」
「そう言われましても」
滝夜叉丸はぱちりと目を瞬いてから、周囲を見回した。
「残念ながら、今この場には私と先輩しかいないので、お話しすることも特にありません」
滝夜叉丸と俺にはあまり接点が無い。確かにわざわざお喋りするほどのことは何もないんだけど……。
「じゃああれだ、この機会に仲良くなろうじゃないか。一応これ、夢を与える小説だしさ」
「先輩、メタな発言は慎んでください」
はい。
「――あ、いたいた、夢野くん〜」
しかし滝夜叉丸と親睦を深める間もなく、その場にのんびりした声が届いた。案の定、そちらを見ると明るい金髪を揺らしてタカ丸が駆け寄ってきた。
「タカ丸さん?さっき用事があるとかなんとか……」
「えっうーん、まあね。終わったの!」
滝夜叉丸の言葉に少し言い淀んでから、タカ丸は誤魔化すように笑って見せた。滝夜叉丸はそうですかととりあえず納得した風に頷いてから、それなら、と話し始めた。
「さっきの私の武勇伝の続きをお話ししましょう!」
「ああ、いや!別の用事できたから!」
タカ丸は慌てて両手を左右に振ると、がしっと俺の腕を掴んだ。
「じゃあね!行こうか、夢野くん!」
「え」
そのまま引きずられるようにして滝夜叉丸から離れた。その滝夜叉丸はまた一人に戻ったが、そのまま戦輪――たしか輪子とか言ったっけ――を取り出して独り言を言いながら歩いて行った。変な奴だよね、あいつも。
「タカ丸〜なんなの?」
「そろそろ時間が無いから、呼びに行けって言われたのー。滝夜叉丸くんに捕まってたらいつまでも来ないかもしれないしね」
「呼びに行けって……誰に?」
尋ねると、タカ丸は振り返って、へらりと笑った。
「五年生と六年生のみんなのところに、どうぞ〜」



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