> この花をくれたのは-1



「この花をくれたのは君達かい?」

尋ねると、彼らは顔を見合わせて、にっこり笑って答えた。
『全然違いまーす!』
そしてまた顔を見合わせてくすくす笑った。
――うーん、何か知ってはいそうだけど。
「じゃあ、誰がくれたのか知ってる?」
「えへへー」
――まったく、一年生は隠し事が出来ないな。
忍者のたまごとしてもまだまだ半人前だ。なんて思いながら、首をかしげた。
「教えて欲しいんだけどなぁ」
「だめですよー!」
「自分で見つけてください!」
あっさりと断られた。
最後に、委員会の後輩である伊助が言った。
「とりあえず、一年生じゃありませんよ。二年生にでも聞けばどうですか?いかにもやりそうでしょ?」
「それもそうだな」
――何も言わずに花だけ置いていく。実は優しい彼らには似合いの方法だ。
俺は一年生達にありがとうとお礼を言ってから、二年生達を探しにその場を離れた。

* *

ついさっきまで、俺は校庭の隅にある大きな木の下で昼寝をしていた。
半刻ほど寝ていて、起きたら隣にたくさんの花が置いてあった。
正直花にはあまり詳しくない。いろんな種類のものが入り混じっているが、半分近くは名前の知らない花だった。
手紙が添えられていたが、差出人は不明。一言だけ書き付けて置かれていた。字体で判断しようとしたら、結果は伊助と出てきたので、多分誰かが字体を変えて書いたのだろう。
探し出してお礼を言おうと思ったのだが、あの一年生達の様子だと、どうやら隠されているようだ。これは相手が見つかるかどうか怪しいな。

* *

『全然違います』
さっきの一年生達は可愛げのある様子で言ってくれたのに、二年生達はさらっと、しかもなんだか冷たい声で返事してきた。ちょっと悲しい。
「なんで僕らがそんなことしなきゃなんないんですか」
「自意識過剰ですね、先輩」
冷たすぎる。
四郎兵衛だけちょっと申し訳なさそうにしているが、あとの三人はつんとしているばかりだ。まったく、そんなだから誤解されるんだよ、君達。
「だいたい、僕らが先輩の誕生日知ってるなんて思い上がりですよ!」
「あれ、俺誕生日だなんて一言も言ってないけど」
『ぎくっ』
つんとした声で言ったつもりだろう三郎次だったが、とても可愛い失敗をした。
「確かに誕生日おめでとう、って書いてあったんだけどねえ。よく知ってるねえ」
ちょっと言い方がウザいのは自覚している。
暗に、やっぱり犯人は君達じゃないのかと言ってみれば、四人は焦りと困りの顔を見合わせた。そして眉を寄せて不機嫌な顔になった三郎次が、ヤケになったように声を上げた。
「僕達二年生じゃありません!犯人じゃなくても先輩の誕生日くらい知ってます!三年生のところにでも行ったらどうですか、可愛い可愛い富松がいるんでしょ!」
――なにその反応可愛いな。
へらへら、というかにやにやというか、そんな笑顔で四人の頭を順番に撫でてから、ありがとなぁと言ってその場を離れた。

* *

富松作兵衛と出会ったのは、俺が四年で彼が一年の時のこと。
入学直後から既に迷子二人のお守役をさせられていた作兵衛が、半ベソかきながら学園内を駆け回っているのを保護したのが最初だ。
以来よく作兵衛の迷子捜索につきあっている。後輩の中では一番仲良しと言っても過言ではないかもしれない。三郎次はそれがお気に召さないようだが、もちろん三郎次のことも大好きなのであまり気を悪くしないでほしい。



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