> 夏も埋められない、僕らの-1



蝉時雨の降り注ぐ夏には、みんなで遊びに出かける。
暑さの多少紛れる森の中に入って、虫が大好きなハチは大はしゃぎで虫かごと網を両手に駆けていく。私もよくそれを追って駆け出したものだ。
かんちゃんとらいぞーは、そんな私達を呆れた笑いとともに追いかけてくる。でも暑さに弱いへーすけとさぶろーは、森の中にできた木陰に座り込んでお喋り。
彼らが私達に参加するのは、随分時間が経って二人きりがつまらなくなった時だけ。だから、元気な組の私達は、彼らが不満げに立ち上がるまで時間を掛けて遊ぶのだ。

「大丈夫?夢子」
「えっ」
心配そうな顔をした雷蔵が、私の顔をのぞきこんでいた。
「疲れてるでしょ」
「だ、大丈夫だよ!」
両手を軽く振って、慌てて答えると、勘ちゃんが嘘ぉ、と声をあげた。
「疲れてるよ、夢子。さっきからぼーっとしてさ」
「だ、だから大丈夫だってば!今日も暑いなって思ってただけ」
「確かに、今日は暑いよね」
雷蔵はそう微笑んで、私から目を外して前方に顔を向けた。
「おーい、八左ヱ門!」
大きな声で呼びかけると、前の方にいたハチが振り返った。
「なんだー?」
「休憩しようよ!今日は暑いから」
今度は勘ちゃんも大声をあげた。ハチは一旦えーっ、と不満そうにしたが、すぐにわかったと答えた。
「かき氷食べに行こうよ!」
「おお!いいなそれ!」
勘ちゃんの提案にハチが笑った。
「三郎と兵助のとこに戻ろう。勝手に行ったら怒られるもんね」
「このまま行った方が近いのにー」
勘ちゃんが肩をすくめた。それを見て、私達三人はけらけら笑った。
「このまま放ってく?」
「あはは、それで俺達を探しに徘徊させる?」
「かわいそーっ」
ハチと勘ちゃんが先に立って歩き出した。軽口をたたきながら、ちゃんと三郎と兵助のところに向かっている。
雷蔵が私の隣に立って歩いている。
「……ごめんね」
「ん?なにが?」
呟くと、雷蔵は苦笑気味にそう返した。
――わかってるんだよ。
私が疲れてるからって、休憩を提案してくれたこと。三人はまだまだ遊び足りないこと。ハチは私の顔を見て、不平を飲み込んだこと。
帰る道のりの足の早さが、三人ともさっきよりゆっくりなこと。
――なんで、私だけ女なんだろ。
何度も繰り返した恨み言を、また胸の内で吐き捨てた。

* *

八左ヱ門達が思っていたより早く戻ってきた。一瞬不思議に思ったが、前に立つ八左ヱ門と勘右衛門の後に、雷蔵と共に続いてやってきた顔色の悪い夢子を見て理解した。
――ま、女だし、しょうがないよな。
三郎もすぐにわかったようで、何も言わずにおかえりー、と手を上げた。
「みんなでかき氷食べに行こうって!」
「お、いいな」
「夏に走り回るよりはよっぽどね」
「兵助、それは嫌味か?」
八左ヱ門がじとっとした目で言ったが、しれっと無表情でいると苦笑に変わった。
「よし、それじゃあ店まで競争!最後の奴が全員分おごるってことで!」
「はあ!?三郎と兵助は休憩してたんだから、卑怯じゃん!」
「過去の自分の判断を恨むんだな!」
三郎が面白がってした提案に、八左ヱ門が不満を口にしたが一笑に付された。
「夢子、いこ!」
「あ、うんっ」
「急ぐぞ」
雷蔵が右手、俺が左手。
夢子を真ん中に手をつないで、三人揃って駆け出した。
「あ、ずるい!フライング!」
「そんな事言ってるから遅れるんだよーっ」
「お先に!」
「あ、おいこら待て!」
学級委員長二人もすぐに走り出して、くそーっと声を上げながら、最後に八左ヱ門が追い出した。




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