> お前は可愛くない!-4



――世の中には随分な物好きもいるようだ。なにが楽しくてこんなのに声かけてんだろ、こいつら。
そう思いながら、三木ヱ門が去ってしばらくして現れた男達を見上げている。試験中じゃなきゃ適当に追い払うのに、普通の女の子はそんなことしないよねー。
どうしようかなと思っていると、ようやく三木ヱ門が帰ってきた。
俺がそれを見たからだろう、男達も三木ヱ門に気が付いたようだった。
「あの、連れが戻って来たので……」
「連れってあれかよ」
「いかにも軟弱そーっ」
彼らは声を立てて笑った。
――あんたら如きが三木ヱ門を笑ってんじゃねえよ。
イラッとして顔をしかめてしまい、片方がそれに気づいたようで睨んできた。
「なんだよお前、今の顔はあ」
「えっ、いえ、別に」
「思ったことがすぐ顔に出る質でして。なにかご用ですか」
そう言って、三木ヱ門がずいっと間に割って入った。
男達二人じゃなくて、三木ヱ門の背を見上げる。
「あぁ?テメェに用なんかねえんだよ」
「さっさと失せろや」
「私の連れに用があるんでしょう。私にも内容を聞く権利はあると思いますが」
――おお、なんか三木ヱ門に助けられてる。
――やばい、かっこいい。
なんてちょっとときめいていたら。
「うっせえんだよ消えろっつってんだろーが!」
と、一人が怒鳴って三木ヱ門の胸倉を掴み上げた。

* *

「――あんたが消えれば?」
え、と思ったら目の前にいた男が消えていた。
――じゃなくて、殴り飛ばされていた。
「おい!」
「……あっ、思わず」
犯人なんかこいつしかいないだろう。右で拳を握っていた夢子が、はっとしたように目を瞬かせた。無意識か。
「な、お前ッ……!」
残ったもう一人が、事実に気付いたらしく顔を青くして夢子を指さした。
そんな相手に、夢子はにっこり笑って見せた。
「ごめんね、あんたらみたいなクズと遊んでる暇ないの、俺達」
――怒ってるな、こいつ。
まあストレス溜まったんだろうなと思っていたら、残った男が慌てて相方に肩を貸して立ち上がった。
そして最後に一言。
「気色悪い女装男と遊んでる暇なんてこっちもねえよ!」
「気色悪いって言うな!」
――いや、夢子。言っちゃ悪いが、確かに気色悪いぞ。
男の捨て台詞に不満そうにした夢子だったが、やがてため息をついて肩を落とした。
「これじゃあまた追試だー……」
「――その通り!」
第三者の声。夢子と私が振り返った先には、見覚えのある女性――いや、男性がいた。
「夢野は不合格!まだまだ私のような完璧な女装には程遠いわよ〜ん」
『監督伝子さんかよ!』

不合格を言い渡されてすぐ学園に戻ることにした。まったく、もう少しで合格だったものを、あの二人組のせいで!
「というか、お前も大人しくしていればよかったんだ!せっかく私が気を遣って助けてやろうとしたのに、自分で殴り飛ばすなんて!」
「えー、だってー」
夢子は不満げに口をとがらせた。だっても何もあるか。お前が追試すら落ちるなんてことになったら可哀そうだと思って、私が代わりに追い払ってやろうと――
「あんなのが三木ヱ門に触れるってのが気に入らなかったんだよー」
――は?
思わず目を瞬かせる。夢子は続けた。
「三木ヱ門に触んなって思って、気付いたら殴ってた」
――なんだそれ!
「意味わからん!」
「あはは、まあねえ」
俺もよくわからない、と笑った。
――意味わからんっていうか、なんだそれ!
――そんな歯の浮くような台詞を、よくも平然と!
きっと顔が赤くなってる、とは自覚している。右手で右頬を抑えていると、夢子がでも、と言った。
「三木ヱ門、助けてくれてありがとう。かっこよかったよ」
――私がかっこいいのなんて周知の事実!
といってかわしたかったのに、耳まで熱くて口をつぐんだ。

女装のお前は可愛くない

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