> お前は可愛くない!-1



――明日、どうするかな。
布団を敷いて寝る準備が整った今、ふと浮かんだ。
明日は忍術学園の休日だ。いつもは会計委員会の活動で潰れることも多い――事務処理よりは委員長の鍛錬に巻き込まれて消える――休日。しかし明日は特に何の予定も入っていない。
――夢子は暇なのだろうか。
衝立の向こうでごそごそと布団の準備をしている夢子をちらりと見やった。
――暇だったら、一緒に、なんて。
思ってもそうあっさり口に出せるわけもなく。
「……夢子」
「ん?なに?」
「明日、なにか予定とかあるか?」
尋ねると、夢子は一瞬きょとんとしてから、あー、と視線を泳がせた。
「まあ、うん。三木ヱ門は?」
「……なんだその曖昧な答えは」
「あはは」
夢子は苦笑した。補足するつもりはないようだ。
「また潮江先輩の鍛錬に付き合うの?」
「……いや、明日は珍しく何も無くてな」
「え」
答えると、夢子は目を瞬かせた。それから勢い込んで続ける。
「明日暇なの?」
「ああ。だから、何をしようかと思っていたところ」
――だから一緒に出かけられないか、と。
台詞だけ思い浮かべながら、えっと、と言い淀んでいると、先に夢子がじゃあ、と話し始めた。
「三木ヱ門、明日、一緒に出かけられない?」
「……えっ」
まさか私の思った通りの台詞を夢子が言うとは思っていなかった。思わず声を上げると、夢子は眉を下げた。
「ダメかな」
「い、いや、駄目じゃない……」
「ほんと?よかったー」
小さく首を振ると、夢子は安心したように笑った。
「俺、明日の朝は生物委員会の活動で出てるんだけど、よかったら、午後から町に出よう」
まさか逆に誘われるとは。
――まずい、ちょっと、というか、結構、嬉しい。
「わ、わかった」
「やったー。なら、明日の九つ半頃に正門で落ち合おうか。多分直前まで委員会だし」
夢子の方は目に見えて嬉しそうに笑った。
そして。
「――あ、じゃあ逢い引きだね!」
と言って衝立の向こうに消えた。
「……は!?逢い引き!?」
「三木ヱ門驚きすぎー」
「な、気持ち悪い言い方をするな!」
――気持ち悪いっていうか、心臓に悪い!
夢子はけらけら笑って、そのままおやすみー、と言って明かりを消した。

なぜ逢い引きなんて言い方をしたのか?おそらく深い意味は無い、ただの冗談だったのだろう。
――それはそれで悲しいものがあるな。まったく意識されてないってことだ。
そりゃあ、そうなんだけど。私ばっかり気にしてるみたいで気に入らない。
次の朝、私がいつもより少し遅めに起きた時点で、すでに夢子は出た後だった。
なんだかそわそわしてしまって、午前中はとにかく火器達の手入れに専念していた。夢子は生物委員会の生徒と弁当でも持って行ったらしく、昼食の時間にも戻ってこなかった。
少し緊張しているのを自覚しつつ、約束の時刻に正門で待っていれば。
「あ、三木ヱ門!ごめんねえ、待ってたー?」
――なんかやけにデカい女が来た!
私が思わずすごい顔でそれを見てしまったのも、仕方ないと思う。



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