> 夏も埋められない、僕らの-3



送るよ、と言うと、夢子は一瞬表情を硬くしてから微笑んだ。ありがとう、と。申し訳なさそうに。
――夢子は女の子として扱われることを嫌がる。
勘右衛門と三郎の家は既に過ぎていた。夢子の家に寄ると僕にとっては遠回りだが、別にそれくらいどうってことない。
「明日は甘味処で、明後日は学園に帰らなきゃね」
「……そうだね」
僕の言葉に対する返事の間が気になった。
気になったと同時に、夢子は足を止めていた。
「……どうしたの?」
一歩離れた距離で向かい合って、ようやく気が付いた。
「なんで、泣くの?」
「ごめんね」
夢子は謝って、涙を拭った。手を伸ばしかけて、やめた。
――どうしよう。どうしてほしいんだろう。
こんな時に、迷ってる場合じゃないのに。
「……みんなはすごいよね」
「なにが?」
「私より、体力もあって、力もあって、すごいよね。何でもできて、いいなぁ」
――体力も力も、そんなものは男女の差ってものがあるんだから。
でも、その説明は夢子を納得させられない。いや、その説明で納得したくはないのだろう。
――夢子と僕らの間に、なんの差もないと思いたいのだ。
「私ね、危ないんだって」
「え?」
「成績。もしかしたら、ね、秋休みで退学になるかも」
しかたないよね、と夢子は泣きながら自嘲するように笑った。
「だって、色事の授業を嫌がるんだもん。くの一として、使い物にならないよね」
夢子は女の子として扱われるのを嫌がる。女であることを武器として使うくの一には、到底なり得ないと彼女自身もわかっていた。
「……ねえ、夢子」
「なに?」
「……君が僕達より力も体力も無くても、いいんだよ。みんなそんなこと気にしないし、勿論僕も」
そう言うと、夢子は息をつめて眉を寄せた。滅多に負の感情を示さない夢子が、本当に嫌そうに顔をしかめた。
「嫌なの」
「どうして。僕らにできなくて夢子にできることって、あるでしょう」
「嫌だよ。私、みんなと一緒がいいのに、そうじゃなきゃ何ができたって意味無いよ」
夢子はさらに泣いてしまった。いやいやと首を振りながら、止まらない涙を拭い続ける。
「ずっと一緒って言ったのに」
――なんで私だけ女なんだろう。
夢子が過去に一度だけ僕らに漏らした恨み言。
多分、彼女はずっと、自分の中だけで木霊するそれを抱え込んでいる。

夏も埋められない、僕らの

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