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『私の年齢は十四歳です』
『では私の一つ下ですね』
『十五歳なのですね。最上級生ですか。お忙しいのに、付き合わせてしまってすみません。忙しくなったら、放っておいて構いませんので』
『ありがとうございます』

一つ下ということは、この相手は五年生なのだろうかと長次は思った。五年生も六年生に負けず劣らず人数が少ないが、この程度では個人を特定するのは難しそうだ。
長次が白い本を見つけてから一月ほど経つ。返事を書いたら一日置いて、その次の日に確認すれば相手の返事が書かれている、というやり取りは続いていた。
最初は非常識な奴だと思っていた長次だったが、今となってはあまり悪い印象はない。むしろ、丁寧な言葉遣いとこちらの状況を気遣う様子がわかる点で、好印象ですらある。

『座学は得意な方です。でも実技がからっきしで。後輩にまで気を遣われるくらい』
『実技は日々の鍛錬の結果でしょう。私もよく友人達と鍛錬をします。一人でやるよりは気が楽なのではないでしょうか』
『友人達とはレベルが違いすぎてどうにも。しかし、やはり鍛錬は必要ですよね』
『自分のペースで頑張ればいいと思います』
『そうですね』

「おーい!長次ー!」
「げっ!小平太だ!」
六年ろ組の教室にいた長次と満のもとに、小平太がやってきた。満はそれを見て思いっきり顔をしかめる。
「お!満もいたのか。ちょうどいい。お前も来い!」
「一応聞くけど、何するつもりだ?」
満が嫌そうな声で尋ねた。小平太は決まってるだろう、と言って笑った。
「これから体育委員会でバレーボールするから、一緒にやろう!」

小平太が長次をバレーボールに誘うのはよくあることだ。それに巻き込まれて満も参加することが偶にある。小平太を見るなり逃げようとするのだが、満の身体能力では到底小平太に敵わないのは、もう数年前に諦めていることだ。
「小平太!ちょっとは手加減しろよ!」
「何を言う!お前は本当になよっちいから、鍛えてやろうって言うのに」
「よ、余計なお世話だ!」
チーム分けは、小平太・長次・金吾と、滝夜叉丸・四郎兵衛・満となった。三之助は途中でボールを探しに行ったきり帰ってこなかった。
小平太はひたすら満ばかりを狙っている。というのも、以前から小平太は満の運動不足について大層気にしているのである。
「だ、大丈夫ですか?渚先輩」
「休憩なさいますか……?」
「い、いいよ別に!大丈夫だし!」
終いには滝夜叉丸と四郎兵衛に心配される始末。あちらは小平太のボールを全て満が集めてくれるのでそれなりに体力が残っているようだ。
「お前達、体育委員会の生徒として、こういう六年生にだけはなっちゃダメだぞー!」
『はい!』
「黙れ小平太!」
満はそう怒鳴って、そもそもな!と続けた。
「俺は忍者志望じゃないからいいんだよ!別に!」
「まったく!そんなことを言ってるから、お前はいつまで経っても体力がつかないんだぞ」
「うるさいっつの!」
小平太の呆れ声に、満が不満の声を上げた。
満は忍術学園から遠く離れた地方の、地主の息子である。しかも長男。ゆくゆくは家を継いで、悠々自適な生活を送るはずのお坊ちゃんである。
「よし、休憩終わり!もう一ゲームするぞ!」
「もう一ゲーム、って言ってこれで何回目だよ!長次なんとか言ってやってー!」
満がついに長次に弱音を吐いたので、長次は一度目を瞬いてから。
「……がんばれ」
「うわーっ!味方がいない!」
――あと一ゲームしたら小平太を止めてやろう。
そう思いながら、長次は本日何十回目かのトスを小平太に上げた。



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