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長次が"それ"を見つけたのは、秋の中頃の図書室だった。

図書室の中には誰も居なくなった。もうすぐ夕飯の時間だから、多くの生徒は部屋に戻ったか食堂に向かったのだろう。
長次は机に広げていた貸出カードや記録を片付けて、自分も早く戻ろうと立ち上がった。
最後に室内に残っている者がいないかの確認をするために、図書室の中を見て回る。ついでに本棚が整理されているかの確認も。
奥の本棚を見ていた時だった。
"それ"を見つけた。
奥の本棚の、一番下の段の一番端。誰にも見つからないよう、という風にひっそりと差し込んである本。
特に何が気になるわけではなかった。強いていうなら、こんな本がこの棚に置いてあっただろうかと疑問に思ったのかもしれない。
気が付けば長次はしゃがんでその本を引き出していた。
表紙も真っ白で、題名のようなものは何も書かれていなかった。それなりの分厚さのある本だ。
――なんだろう、これは。
長次は少し目を細めて、本を二度ほど表裏と翻した後、ゆっくりと一枚目の頁をめくった。

『誰かお話ししませんか?』

一枚目にはそう書いてあるだけだった。



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