星降る夜へ-1



「ねえ、雷蔵。変な夢を見たんだ」
俺が言うと、雷蔵は首をかしげてみせた。雷蔵はいちいち仕草が大きくて、俺はそれだけで言いたいことがわかると自負している。
「君が死んでしまう夢なんだ。約束を破って」
そう続けると不満そうに口をとがらせる。つい笑ってしまうとさらに不満そうにする。ふふ、いや、君があまりに可愛らしいものだから。
「そんなことありえないのにね」
雷蔵は当たり前というように頷いて、ふいとそっぽを向いた。悪かったよ、こっち向いて。君の表情がとても好きなんだ。ころころ変わっていくくせに、結局穏やかに落ち着く君が、ゆったりと笑ってくれるのが。
「君が約束破るはずないよな、知ってる。ああ、ほら、破ら不じゃないか、今気づいた。はは、もう、雷蔵呆れないでよ」
東は藍色、西は赤色。その間は薄暗い紫色。もうじき夜がくる。暗くて寂しい夜だけれど、君がいるなら俺は大丈夫。呆れた顔をしている雷蔵に、俺はけらけら笑ってみせる。
「馬鹿なことを言ってる自覚はあるんだ」
その通りだよ、というように雷蔵がふわっと笑ってくれた。

*  *

食堂に行くと、兵助と勘右衛門が二人で夕食をとっているのを見つけた。先に勘右衛門がこちらに気づいて、その視線を追って兵助が振り向いた。二人いっしょに目を丸くしたので、俺はちょっと笑ってみせた。
「なに?」
「え、いやなんでもないけど……」
勘右衛門が誤魔化すように両手を振った。兵助は眉をひそめてじっと俺を見上げている。なんだろう、変なの。隣に立つ雷蔵に目をやると、雷蔵はそれに気づいて苦笑した。
「今日の夕飯なに?」
「からあげ定食か、鮎の塩焼き定食。ほら」
なるほど確かに、勘右衛門と兵助はそれぞれ別のを頼んだらしく、勘右衛門の前にはからあげがあって、兵助は鮎をつついていた。へえおいしそう、と言うと二人は少し変な表情のままだったが揃って笑った。
「おいしいよ」
「夢太も一緒に食べる?」
珍しく兵助から誘われてしまった。別に彼が付き合い悪いとかいう意味でなく、勘右衛門や他の奴と一緒にいる時の兵助は少し引きに入る部分があるから。
「ありがと、でもいいや」
俺はそう言って、勘右衛門の前に綺麗なまま残されたからあげを一つつまんで口に放り込んだ。勘右衛門は一瞬唖然としていたが、すぐにあっと声を上げてもぐもぐする俺の口元を見る。
「ほんとだおいしい」
「夢太、自分で買ってきなよ」
勘右衛門が顔をしかめて言う。兵助も同じような顔をしていて、隣を見ると雷蔵も同じくだった。はしたない、なんてわかってるよ、言われなくてもね。
「いいよ、これで十分だから」
ごちそうさま、と勘右衛門に言うと、ますます顔をしかめられた。そんなに怒るなよ、まだ三つも残ってるじゃないか。
時間も時間で利用者が少ないからか、食堂のおばちゃんは調理場から俺達の方を見ていた。そんなおばちゃんに向けて、おいしかったでーすと声をかけると、一度目を瞬いてからそうかい、とちょっと困ったように笑っていた。
「じゃあね、二人とも、また明日」
「待てよ、本当に食べないの?」
そのまま食堂を出ようとしたが、兵助が腕を引いたので足止めをくらう。
「なんで?」
「だってお前、最近全然……昨日から一度でもちゃんと食事したのか」
まさか、兵助にそんなことを言われるとは思わなかった。俺は少し驚いたが、すぐに大丈夫と答えた。
「水さえあれば人間生きられるって言うだろう。検証中、なんてね」
「夢太、俺たちは真剣に」
勘右衛門もまだ難しい顔をしている。からあげの恨み重すぎじゃない?真剣に、なんだろう。変な二人。
「大丈夫だよ、お腹いっぱいにしたら、眠くなっちゃうからさ」
ねえ、と雷蔵に同意を求めると、彼は少し間をおいてから笑った。ほら、雷蔵もその通りだって言ってる。
そういうことだから、と言ってやると、二人はさらに顔をしかめて、ともすれば泣きそうだとも思える表情をして黙り込んだ。


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