最悪!-1



保健委員会に五年生がいた。その衝撃は、それを知って一月近く経つ今でも幼い一年生達の心を魅了してやまない。
「あ!いた!」
「ほんとだ!」
というわけで、猪名寺乱太郎と鶴町伏木蔵はこの日の放課後、最近保健委員だと発覚した五年は組の夢野夢太を見つけ出した。
といっても、別にお喋りしたいわけではない。一月前の遠足は延期になり、日を改めて行った遠足では、彼が先生におつかいを頼まれて不参加と終わったため、この二人はまだ夢太とほとんど関わりがない。確かにお喋りもしたいが、その前にまずは彼のことをよく知る必要があると考えた。
まあぶっちゃけると、忍者っぽく情報収集なんかしてみたかったわけだ。
「よし、ここからは小声で会話だよ……!」
「見つかったら偵察出来ないからね……すごいスリル……!」
偵察対象の夢太は、二人が隠れている草むらから少し離れた場所の木陰に座っていた。にこやかに会話している相手は、桃色の装束を着た女の子。
「さすがくの一教室人気一番の夢野夢太先輩……」
「彼女なのかな?」
「どうなんだろ」
くの一教室には顔の整った生徒が多い。夢太が今話している相手も、当然綺麗な顔をしている。
距離があるため会話は聞こえないが、二人の楽しげな表情と時折聞こえる笑い声から、とても"良い雰囲気"なのはわかる。
「僕達がここに来るまでに、落ちた落とし穴の数は?」
「たったの一回……」
「やっぱりこれって……」
「夢野先輩の幸運のおすそ分け……!」
乱太郎と伏木蔵が小声で言い合って、きらきらした目で夢太を見た。一回落とし穴に落ちた程度では不運にカウントされないらしい。
この放課後、伏木蔵がふと思い立って乱太郎を誘って夢太を探し出すまで、驚くほどスムーズに事が運んだ。彼らの中には、夢太に関係することをしていれば不運に見舞われないという定義が固まりつつあった。
「きっと夢野先輩が保健委員会の最後の良心なんだよ!」
「なんとしても夢野先輩に委員会に参加してもらおう……!」
乱太郎と伏木蔵が顔を見合わせて、お互い頷き合っている時だった。
「――夢太くんッ!!どういうことよッ!!」
――そんな、大きくて甲高い怒声。
乱太郎と伏木蔵が慌てて草むらから顔を出すと、とても怒った表情のくのたまが歩いてきたところだった。
これだけで、一転して雲行きが怪しくなったのが肌で感じられる。
「サスペンスの予感……!乱太郎、もうちょっと近づいてみよう!」
「あ、ちょっと伏木蔵!」
なぜか顔を輝かせて、伏木蔵がこそこそと草むらから出ていった。嫌な予感を感じた乱太郎はむしろ見なかったことにしたかったが、伏木蔵が心配だし、年相応に好奇心もあったので、結局続いて草むらから出た。


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