不運!-1



『ええー!?保健委員会に五年生ぃー!?!?』
ある日の放課後、医務室にてそんな悲鳴が上がった。

この日保健委員会の生徒達は、全員医務室に集まっていた。ついにカツカツ予算内での薬草のやりくりが崖っぷちに立たされたため、三日後の週末に全員で裏々山の奥まで薬草を取りに行く計画を立てることになったからだ。そうして集まった彼らに保健委員会委員長の善法寺伊作が、時間があったからと暖かいお茶の注がれた湯呑を渡してくれた。
――用意されていた湯呑は六つ。この場に集まっているのは五人。
しばらくは、校医の新野先生の分だろうと誰も気にしなかった。計画について粗方決まってきたところで、一年生の猪名寺乱太郎が言った。
「ところで、新野先生遅いですね。お茶冷めちゃいますよ」
その言葉に、伊作は目をぱちりとさせてから、首を傾げた。
「新野先生?今日は出張で学園にはいらっしゃらないけど……」
『えっ?』
そこで乱太郎含めた四人の声が重なる。二年生の川西左近が、でも、と慌てて言った。
「湯呑が一つ余ってますが、それは……」
「ああ、これかあ。ちょっと多かったから、もう一つ作っただけだよ」
「なんだ、そういうことですか」
へらりと苦笑した伊作に、左近は納得した風に引き下がる。
「あと、一応誘っといたから、来たらお茶が無いと彼も気の毒だし」
「……彼って?」
三年生の三反田数馬が、その伊作の言葉に首を傾げた。
「彼も一応保健委員でしょ?明々後日一緒に来てくれないかなって頼んでみたんだけど、この様子じゃあやっぱり来てくれないようだね」
「保健委員って、この五人で全員なのでは……」
一年生の鶴町伏木蔵が恐る恐る尋ねると。
「――あれ?五年生にも一人いるの、知らない?」
そうして、冒頭に戻る。

* *

ああこの子、また来たのか。熱心な事だなー。
「ねえ、夢太くん、今度の週末は空いてないの?」
「うーん、どうだったかな」
桃色の装束を着た女の子。彼女はくの一教室の三年生で、忍たま五年生の俺より後輩なのだけど、くの一教室の子の中に俺を先輩と呼ぶ後輩はいない。
「私、町で新しいお化粧道具買いたいの!」
「そうなの?万智子ちゃん可愛いんだから、お化粧なんてしなくてもいいのに」
「やだ、夢太くんったらお上手ー!」
「お世辞なんかじゃないったら」
なにペラペラ喋ってんだ、俺。そりゃあ確かに可愛いけどさ、そんな事わざわざ言う必要あるかな?
――この無闇に人当たりの良い性格、どうにかならないかなあ。ならないだろうなあ。
「で、週末どう?」
「そうだなあ」
曖昧に反応しておきながら、なんとか適当な言い訳がないかを考える。正直面倒くさいから、週末は部屋でごろごろしていたいタイプなのだ、俺は。
「おーい!夢太ー!」
俺の名前を呼ぶ声がして、俺とくの一教室の子が二人してそちらを見る。
隣のクラスの生徒、竹谷八左ヱ門。彼が軽く手を振りながらやってきた。
「なんだよ、八左ヱ門」
「いや、は組ってあの宿題出た?座学の」
そう言って八左ヱ門は忍たまの友の頁数を言った。今日提出期限だった宿題だ。
「今日提出だったけど」
「マジで!ちょっと教えてくれね?ろ組は明日提出なんだけど、終わらねえの!雷蔵は委員会行ってるし、三郎は自分でやれって取り合わねえし」
「自分でやれよ」
「お前もそんなこと言うのかよ!」
相変わらずだな、八左ヱ門は。お前ろ組だろ。一年の時は一応お前の方が成績よかったじゃん。今となってはすぐ俺に頼ってきやがって。
「わかったわかった。じゃあ今から部屋でやるか」
「おお!サンキュー!」
「――ちょっと、竹谷先輩!!」
あ、忘れてた。
「今は私が夢太くんと話してるんですよ!邪魔しないでください!」
「え、あ、ごめん……」
なにすごすご引き下がってんだよ。情けない奴。確かに怒ったくのたまは怖いから、わからないではないけど。彼女の顔は八左ヱ門の方を向いて眉を寄せて相手を睨んでいる。怖い。
「で、夢太くん、今週末は空いてるの?」
「うーん」
「え、今週末は暇だってお前言ってたじゃん」
――てめえ竹谷余計なことを!!
「え!そうなの?」
「あー、うん、まあ」
「わあよかった!じゃあ町に行きましょ!巳の刻に門の前で待っててね!」
ああ、それで予定が無いとわかると私と行くだろう的な考え方。いや別に良いんだけどさ。
「うん、わかった」
「それじゃあ」
そうして万智子ちゃんはパタパタと嬉しそうにくの一長屋の方に走って行ってしまった。こうやって流されやすい性格が、時々嫌になる。
「よし!それじゃ宿題教えてくれよ!」
「……八左ヱ門お前なあ!!」
「いってえ!なんで急に殴るんだよ!」
「お前が余計なこと言うから!」
――別に今週末は暇ではないのだ。もしかしたら保健委員会の活動に参加するかもしれないんだから。
――そう言って普段全く参加したことはないんだけど!



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