星降る夜へ-5



暗い雑木林を抜けると、やっとたどり着いた。木も何も遮らない場所、見上げると満点の星空が広がっていて、今日は天気がいいから、大きな天の川が手の届きそうなところで流れている。小さな草原。
「ねえ雷蔵、ほら、すごいでしょ」
そう言って隣を見ると、雷蔵は笑って頷いた。もう一度見上げる。川の両岸で瞬く織姫と彦星のお話は、誰でも枕元で聞かせてもらっただろう。俺はこの話、嫌いじゃない。
「やっと約束が叶ったね、よかった、ねえ褒めてよ、俺頑張ったでしょう」
雷蔵は嬉しそうに笑った。そしてゆっくり右手を伸ばして俺の頬を撫ぜる。彼の手は存外大きくて、当然のように優しくて、温かいことをよく覚えている。
感触を与えない右手はいつもなら泣きたくなるほど嫌なのに、嫌いになれないからまた苦しくなるのも飽きた今や、君の手が取れないことだけがひたすら悲しいよ。
「ふふ、やった、雷蔵に褒められた」
笑いながら雷蔵は呆れたようにした。
「約束だから当然だって?ふふ、確かにそうだね、もう、呆れないでよ」
ああ、なんだかとても気分がいい。芝生にごろんと横になる。隣の雷蔵は座ったままで、苦笑して俺を見下ろしている。
星でも降り出しそうな空だ。梅雨の今にこんな綺麗に晴れるなんて、俺達はとても幸せな二人だね、ねえ雷蔵。同意を求めたかったのだけど、急に眠気が襲ってきて勝手に目が閉じてしまう。星も何もかも消えて、瞼の裏に雷蔵の姿だけが映っていた。
「ああ、雷蔵ごめんね……なんだか、すごく眠い……」
雷蔵、雷蔵、笑ってくれるだろう。君は、こんな俺を許してくれるでしょう。
「いいよね、君が起こしてくれるから――俺、ちょっと寝るよ」
それなのに瞼の裏の雷蔵は、俺を見てぽろぽろと泣き出した。ごめんね、って言っている?わかるよ、俺は君のことが好きだからね。
今も、好きだからね。

「はは、もう――雷蔵、泣かないでよ……馬鹿なことを言ってる、自覚はあるんだ――」

ごめんね、雷蔵。君が笑っているわけないなんて、俺が一番よく知っていたのに。
君の泣き顔を見たくなくて、俺は目を閉じることができなかったよ。


星降る夜へ、君の涙が落ちていく
[あとがき]



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