最悪!-4



「よくあるんだよね。いつの間にか誰かと付き合ってることになってるの」
「どういうことですか?」
わからないかな。わからないか、一年生だもんな。それに、知らない方が幸せだろう。
「女の子同士で恋バナするのに、勝手に使われてるみたいなんだよね。この前から付き合ってるのーって」
「え?知らないうちにですか?」
「知らないうちに」
『えー!』
二人は予想もしていなかったようで、目を丸くして驚いた。
「で、それを聞いた他の子達が、その子に『夢太くんが浮気してたよ!』って報告するでしょ?で、そうなると彼女だと言った手前、動かないわけにもいかず、あーゆーことになるの」
「とばっちりですか!?」
「すごいスリル……」
「ま、ちょうどいいんだろうね。顔は悪くない、性格も普通、一番いいのはそんな風に使っても何も言わないところ、ってね」
自嘲を含めて言うと、二人は眉を下げた。
「ちゃんと言い返した方が良いですよー」
「そうなんだけど、不運だからどう転ぶかわかったもんじゃなくて」
「うーん……その感覚はわからないでもないです……」
想像するに、俺が誰かにその不満を訴えた時、それまで同じ手法をとってきた生徒が、自分の罪を隠すために相手側につき、正義は相手にあると周囲は思い、俺が悪役になって終わりだろう。
――つまり今更どうしようもないのである。
「……まあ、良いんだよそれは。もう慣れたし」
「よくないですよう」
「そう言ってもらえるだけでありがたいよ」
「先輩、悟ってる……」
一年生達に同情の目で見られた。とても辛い。
「結局、無駄に好かれても嬉しくないってことだね。どうも思ってない人に好かれても、好きな人に敬遠されてたら意味ないし」
『え!先輩好きな人いるんですか!?』
――しまった!つい必要以上のことまで!
「誰ですか誰ですか!」
「やっぱりくのたまの生徒ですか?」
なんか目を輝かせて詰め寄ってきた!誰が教えるか!
「うるさい!関係ないだろ!っていうかいな、い゛ッ」
『……先輩?』
いない、と言おうとした俺が急に顔をしかめて口を覆ったので、二人は目を瞬かせて首を傾げた。
「……舌噛んだ」
「いないと言おうとして舌を噛むってことは……」
「やっぱりいるんじゃないですか!」
「なんでこの短時間で俺の不運を上手く活用できるんだよ……」
いや、これも俺の不運のなせる技?もう嫌。
「先輩って意外とわかりやすい人だったんですね」
「うるさい……」
伏木蔵が感慨深げに言うので反論しておくが、なんかもう疲れてしまって声に力が入ってない。
「先輩、好きな人公言しちゃえば、寄ってくる人も減ると思うんです!」
「絶対言わないから」
ちぇー、と乱太郎が口を尖らせる。なんでそんなに聞きたがるんだよ。
「告白とかしないんですかぁ?」
「いやいやいや!絶対無理!何言ってんの!」
伏木蔵がそんなことを言うので、慌てて首を振る。乱太郎も面白そうに便乗した。
「先輩ならいけますって!」
「何を根拠にそんなこと言うの!?絶対無理だから!」
「先輩意外と親しみやすいから大丈夫ですよう」
「そういう問題じゃない!」
ため息をついてから、ぼそりと呟いた。
「だいたい、絶対不運で裏目に出るだけだし」
「……先輩!」
乱太郎が急に強い声色で言った。驚いて目を向けると、彼はなんとなく怒ったような顔をしていた。
「先輩の、相手を好きな気持ちは、不運に負けるようなものなんですか!?」
「……え」
「そうですよ。不運だからって諦めてちゃ、何も始まらないんです……!人生、スリルが付き物です!」
「みんな先輩と同じように不安を抱えながら、相手に想いを伝えてるんです!それを、不運を言い訳にして努力を怠っているのは先輩です!」
やけに力説する乱太郎と伏木蔵。呆然と二人の顔を見ていると、その目には強い光が宿っている。
――努力を怠っているのは、俺。
――努力すれば、想いは報われるのだろうか?
――不運を吹き飛ばすほどの、努力で。
「先輩ならできます!」
「先輩はとてもいい人だって、まだあまり話してない僕達でさえわかるんですから……!」
「二人とも……」
その二対の目は嘘をついているようには見えなかった。本当に俺をそんな風に評価してくれているのだろうか。
――なら俺は、その評価に応えられるだろうか……。


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