不運!-4



仏の顔も三度まで。
伊作先輩がバレーボールで倒れてしまって、一度目。
一二年生が倒れてしまって、二度目。
そして、僕が穴に落ちてしまって、三度目。
穴から助けてもらった僕が、足を捻ってしまったと知ったら四度目。夢野先輩の雷が落ちる。
実際彼が不運に巻き込まれた回数を数えているかは知らないし、伊作先輩と一二年生の件を一度とカウントしているかもしれない。しかし、やはり気を付けなければならない。一二年生は夢野先輩のことをよく知らないから、出会ってすぐに怒鳴る彼を見たら、夢野先輩を苦手に思ってしまうかもしれない。
夢野先輩は本当は優しい人なんだ。
――『数馬はまた……もっと注意深くなれよ』
そう言って眉をひそめながら、僕の手を引いて引っ張り上げてくれるような。
――『足を捻った?まったく!』
呆れたように言って、目は心配そうに僕の足元を見るような。
「――え、数馬!?大丈夫!?」
彼がそうして自分を見つけてくれるのを期待して、絶対にそうならなくなったのは、いつからだったか。

* *

医務室について、行儀が悪いのは承知で足で障子を開けた。背負っていた伊作先輩をゆっくり寝かせて、一向に医務室に入ってこない三人を振り返る。
「……何やってるの?」
軽く眉を寄せて尋ねると、三人ははっと顔を見合わせて、それからぱあっと表情を明るくした。
「先輩すごい!」
「はあ?」
医務室に来る途中で自己紹介してもらった乱太郎が、目を輝かせて声をあげた。
「あんなに長い距離を、なんの不運もなく医務室にたどり着くなんて!」
「しかも僕達までなんの不運もなかった!」
「すごいスリル……!」
なんなんだろうこの三人。何がそんなにテンション上がったんだろう。
「夢野先輩!」
「な、なに」
三人が俺に詰め寄ってきた。上半身をのげ反らせながら問いかけると、三人は同時に言った。
『保健委員会に来てください!』
――『保健委員会に来てください……』
確か一年ほど前のこと。彼にも同じことを言われた。
――『ごめん、無理』
「ごめん、無理だよ」
「なんでですか!?」
――『なんでですか?』
――『それは……』
そこで、彼の友人が彼の名を呼んでやってきた。俺はそれをいいタイミングだと思って、彼を残してそのまま走って去ってしまった。
もしかしたら、あれも俺特有の『不運』だったのかもしれない。
「――無理だからだよ」
――『俺も不運だからだよ』
結局"言いたいこと"は言えなくて、俺は医務室を出た。伊作先輩の看病よろしく、と言い残して。

走ってさっきの落とし穴の場所まで戻ろうとして、途中で数馬が彼の友人に支えられて歩いてくるのを見つけて思わず隠れてしまった。
――やっぱり、足捻ってたのかな。
――相変わらずだ。俺はそんなことで怒るほど挟量な人間に思われてるらしい。
俺は数馬とその友人が医務室の方に行くのを見送って、その場を離れた。

保健委員会に所属する俺は、当然とでも言おうか、不運を持っている。
その性質はどうも他の保健委員と比べて違っているから、あまり知られていないだろう。
――"願ったことが叶わない不運"。
行きたくもない約束をいつの間にかさせられ。
聞きたい言葉は七松先輩のバレーボールに遮られ。
助けてあげたい数馬は助けられず。
参加したい委員会にも、参加できない。
――そんな不運を。



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