黄昏時へ-4



ごほ、と咳き込んで目が覚めた。
新野先生と善法寺先輩が僕の顔をのぞき込んでいる。三郎達四人もいたが、先生と先輩に場所を譲っている形だった。
これは違う。

「不破、もうだめだ。寝てはいけないよ」

善法寺先輩が言った。言いながら、僕の上体を起こした。
「不破くん、大丈夫ですか?」
新野先生が尋ねる。僕は視線を上げずに布団を睨んでいた。
頭が痛い。くらくらする。
「不破、これ飲んで」
視界に竹筒が現れた。善法寺先輩が差し出したらしい。二三度目を瞬かせてから、それを手に取る。
喉に流し込むと、体に沁みる感じがした。随分喉が渇いていたのに気がついた。すぐに飲み干してしまった。
「不破くん、喋れますか?」
――これは違う。
「雷蔵……」
勘右衛門の声が小さい。
「……眠い」
呟くと、誰かが息を呑んだ音がした。
「不破くん、君は眠くありませんよ」
「眠いです。寝かせて下さい」
「駄目ですよ。もう寝てはいけませんよ」
「眠いです」
「眠くありません」
どうして。眠い。眠いんです。
――まだまだ、寝足りません。
「雷蔵、もうやめろよ……もういいだろう」
兵助の声がした。少し震えていた。
す、と伸びてきたのは見慣れた手。虫に刺されたり、動物に噛まれたりした跡の残る、八左ヱ門の手。布団の中の僕の手を引き出して握った。
「雷蔵、出てこい」
そう言った。
「……眠い」
「雷蔵!」
三郎の怒った声。肩をぐいと引かれて、ぐらりと視界が揺れる。
「お前っ、いつまでそんなことしてるつもりだ!」
「待って鉢屋!手荒なのはだめだよっ」
善法寺先輩が慌てた声で言った。三郎はその声で手を離した。僕は一度も顔を上げなかった。
「不破くん、外に出ましょう。太陽の光にあたれば、すっきりしますよ。ね」
――太陽の光。
「嫌です」
「不破、」
「それは違う。違う」
「何が違うの」
善法寺先輩が言った。
頭が痛い。くらくらする。
「――そこには夢太がいない」
また、誰かが息を呑んだ。
僕は目を閉じた。
これは違う。

* *

――今回は、夢太の部屋だった。

薄暗い夢太の部屋の中に、夢太が眠っていた。
勘右衛門と兵助に手を引かれて行ったそこには、布団に潜って眠る夢太と、それを見ている三郎と八左ヱ門がいた。夢太は気持ち良さそうに寝ている。他の四人の表情はわからない。
「――」
「え?本当に?」
勘右衛門の言葉に驚いて返す。夢太の布団の隣に座る。
僕はこの日まで三日間学園を留守にしていた。少し遠い場所までの忍務だったからだ。
その三日間、夢太は一度も起きていないらしかった。誰が起こそうとしても起きないそうだった。
まさか、何か病気とか?不安になった。
「夢太!起きて!」
「んー……」
え、と思った時には夢太は布団の中で身じろぎした。
「――」
「――」
四人が口々に何か言った。夢太は瞼を半分開いて、僕を見た。
「あれ、雷蔵……忍務は?」
「終わって帰ってきたところだよ」
「えー?嘘だあ」
「――」
「――」
四人が身を乗り出して夢太に何か言う。夢太は目を丸くしてその言葉を聞いて、最後に困ったように笑った。
「俺、本当に雷蔵いなきゃ駄目だな」


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