05-4



しばらくして餌は十分に集まったようで、春市が仙蔵のところに戻ってきた。
「ごめんねー。終わったよ」
「ああ。あんまりかごを近づけるな!」
虫かごの中でうぞうぞとする黒い塊から目を逸らした仙蔵を見て、春市はけらけらと笑った。
「あはは!仙蔵くんも流石に虫は食べられない?」
「流石にってなんだ。元々動物の餌なんか食えるか!」
お前が勝手に突っ込むんだろうが!と声を上げると、春市はまた可笑しそうに声を立てて笑う。
「早く帰るぞ。もう暗くなる」
「だねえ」
仙蔵と春市は森の中を学園に向かって歩き始めた。わざわざ道に出るよりはこっちの方が早い。
「……仙蔵くんさあ、進路ってなんか考えてる?」
「は?」
春市が急にそんな事を言うので、仙蔵は首を傾げて彼の方を見た。春市は苦笑してみせて、いや、と続けた。
「父さんと母さんが、どうすんのって言うの。あと一年あるじゃんって言っておいたけど。みんなはなにか考えてるのかな」
「基本的に、全員そんなに考えてないだろう。私もだが」
「そっかあ。でもそろそろ考えなきゃ駄目なのかな」
――やはりこいつも、思うところがあるのだろうか。
今楽しく生きていればいい、というタイプだと思っていたが。存外将来のことを心配するようなこともあるらしい。
「……あと一年しかないんだよねえ」
その言葉は図らずも数日前の自分と被った。仙蔵は苦笑して、その時伊作から言われたように返した。
「あと一年もある」
「いやいや。一年なんてあっという間だよ」
春市は軽く首を振って、仙蔵の方を見た。
「みんなと一緒だと、本当に過ぎるのが早いよ」
「……ああ、そうだな」
肯定した仙蔵に満足げに笑って、春市はうんうんと頷いた。
――お前がいる一年は本当に早い。
もちろん、他の友人達も。
「そうだ、仙蔵くん」
「なんだ?」
「仙蔵くんは好きな人っている?」
「はあ!?」
思わず、裏返った声が出た。春市は何その声、と笑うが、仙蔵は内心気が気でない。
――なんで急にそんな話に!どういう意図でそんな質問を!
「な、なんだ、急に」
「この前、小平太くんと長次くんとそんな話になってね。みんなは好きな人とかいるのかなーって」
そこで私に聞くな、と思いながらどうしようかと考える。もうほとんど失恋した気分なのだ。傷心中なのだ、自分は。
「人に聞く前に自分のことを話せ」
「おっと」
仙蔵の切り返しに、春市は困ったように眉を下げた。
「うーん。僕はねえ……」
――あ、まずい。
仙蔵はなんとなくそんな気がした。春市との追いかけっこで勝つか負けるかわかるような。予想。
「好きなのかなあ」
「……なんだそれ」
「好きっぽいんだけど、普通ありえないよねって感じ」
「いや、わからん」
「だよね」
春市は苦笑して、うーんと考え込むようにした。
「……ま、どっちにしろどうって事じゃないからいいんだけど」
「はあ?」
「好きじゃなければそれはそれでいいし、好きだから告白するとかそういう気もないし。現状維持が精一杯」
また、結論も図らずも自分と被っている。
――結局、こいつはあまり恋愛事に興味がないのだろう。
「じゃあ仙蔵くんの番!」
「……私は」
――告白するなら、このタイミングだろうな。
仙蔵はそう思いながら。
「いる、けど、お前には関係ない相手だ」
仙蔵の言葉に、春市は少し目を細めてから。
「ふうん」
と、一言。

「――仙蔵くんのばーか」

「何か言ったか?」
「なんにも〜」
小さく動いた口に気づいて、仙蔵が問いかけたが、春市は首を振って笑ってみせた。
「とりあえず、あと一年よろしくね」
「なんだその終わり方は……まあ、そうだな。こちらこそ」
春市は仙蔵の言葉に柔らかく微笑んだ。

終わりたくない二人の
[あとがき]



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