05-3



春市は私服でも縄は常備している。いつもの赤い縄を腰に巻いていて、歩くと縄の端が尻尾のように揺れる。
「仙蔵くんのお願いは可愛らしいねえ」
「お前のがえげつないだけだ」
「そんなことないもん」
春市は口を尖らせたが、すぐに上機嫌に笑った。
仙蔵がおいかけっこで春市にお願いをするのは、珍しいことだ。特に頼み事は無かったし、ちょっとしたことは普通に口頭で頼む。
しかし今回は。
――二人で町に遊びに行こう。

仙蔵の要望で本屋に行ったり、春市の要望で甘味処に行ったり、特に用事があるわけではなかったから、二人はのんびりと町を歩き回った。
空が赤くなり始めて、仙蔵は学園に戻ろうと春市に言った。春市はうんと一度頷いてから、あ、と何か思い出したようにした。
「ごめん、仙蔵くん。僕、生物委員会の子達の餌捕まえに行かなきゃ」
「ああ、そうなのか」
「先帰ってていいよ」
「いや……時間も時間だし、一緒に帰ろう。見学しててもいいか」
「そう?じゃあ一緒に行こ」
春市は嬉しそうに笑った。
学園に戻る途中には森があって、いつもそこで餌になる虫などを捕まえているらしい。小さめの虫かごと網をかちゃりと組み立てて、くるりと網を回してみせた。
「仙蔵くんが町に誘ってくれてよかったよ。ちょうど八左ヱ門くんに餌取ってくるの頼まれてたんだけど、完全に忘れてたから」
「お前は相変わらずだな。そろそろしっかりしろ。来年は私達が六年生だぞ」
仙蔵の言葉に、春市はぱちりと目を瞬かせて、眉を下げて笑った。
「あーあ。六年生ね」
「どうした、嫌そうだな」
仙蔵は小さく首を傾げた。春市はうーんと頬を掻いた。
「嫌ってわけじゃないけど……色々考えない?あと一年かあ、とか」
「お前がそんな繊細な心を持っているとは思ってなかった」
「仙蔵くん酷いーっ」
春市はけらけらと笑って、仙蔵に背を向けた。無駄話より虫取り、ということか。
春市の意識が完全に虫取りに持っていかれたので、仙蔵は自分で言った通りにその様子を見学していた。こうして見ると随分手馴れた様子で網を振る。元々実家が山の中にあるから、幼い頃から虫取りして遊んでいたのだろう。
――卒業したら、どうなるのだろうな。
仙蔵はぼんやりと思った。
もちろん卒業にはまだまだ時間があるのはわかっているし、自分もおそらく春市も進路なんか漠然とも決まっていない。今考えても仕方が無いし、無意味であることも理解しているが。
――結局、私達はこのまま終わるのだろうか。
数日前に仙蔵があの五人の前でした告白宣言は、最初から躓いてしまった。春市は友人に告白されると困るそうだ。しかも同性となると絶望的だとろ組の二人が言った。
やはり現状維持が精一杯なのだろうという意見で六人は一致した。仙蔵も納得は出来ていないが、ヤケになって嫌われるよりはマシだと考えている。せめてペットより昇格は出来ないのかと思うが。


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