05-2



「……なんにせよ、積極的になったのは良いことだ」
「まあ、そうだよね。成長だよ」
「長次、伊作……」
ここに来て初めて自分の言葉に賛同する意見が出てきて、仙蔵は目を瞬いた。
「ま、元々は仙蔵に協力しようって話だったしな」
「お前は役に立ってなかっただろうが」
「なんだと!」
「うるさいぞお前ら!私も協力するーっ!」
また変に突っかかる文次郎達の頭を両手で抑えて、小平太が元気良く言った。
「お前達……」
仙蔵は柄にも無く感動した。なんだかんだ言って、今まで冷やかし混じり呆れ混じりに自分の恋を応援してくれていたのを実感した。
「じゃあどうしようか」
「でもなあ、告白は個人の自由っていうかな」
伊作の言葉に、留三郎は腕を組む。他の三人も同じように少し考えてから。
「じゃ、とりあえず仙蔵が泣いて帰ってきたら優しく迎えてやるか!」
「手拭いの用意もしないとね」
「なら茶でも煎れてやったらいいんじゃないか」
「昨日手に入れた美味しい菓子があるぞ!」
「おお!持ってこい文次郎!お茶会だ!」
「慰める話は!?というか、なんで失恋する流れなんだ!!」
長次以外の四人についに仙蔵が声を上げると、四人はあっと呟いてから苦笑してみせた。こいつら……。
「でも失恋覚悟でしょ?」
「そ、それはそうだが万が一の可能性とか……」
「ないだろ」
「まあないよな」
「ないない!」
「う……」
――そこまで言わなくてもいいだろうが!
仙蔵が軽く涙目になっていると、長次が呟いた。
「……一度、春市に聞いてみる方がいい」
『え?』
その場の全員が長次に目を向けた。
「聞いてみるって?仙蔵を好きかどうか?」
「意味あるかそれ?」
「そうではない……人によっては、トラウマになるだろう。同性の友人から告白など」
その言葉に、室内の空気が固まった。
「……そうか、逆に後退する可能性があるのか」
「さすがに嫌われるのは元も子もないな」
「仙蔵を見てたから感覚麻痺してたね」
「危ない危ない!さすが長次」
四人が口々に言う隣で、仙蔵は呆然としていた。
「仙蔵、大丈夫?」
「……なんということだ……」
「大丈夫じゃねえよこいつ……」
伊作と文次郎が心配そうにしていると、うーんと唸った小平太が言った。
「よし、なら私達が春市に聞いてこよう!衆道について理解があるかどうか!」
ろ組の二人は春市と一番仲がいい。一年の頃からのクラスメイトだ。
そうと決まればと、二人は部屋を出ていった。

「――衆道?意味がわからないと思う」
春市が一言で切り捨てたので、小平太と長次は思わず固まった。
春市は不思議そうに首を傾げた。
「どうしたの?二人とも」
「え、いや」
「……珍しいな、そんなにはっきり言うのは」
普段から穏やかな質の春市だ。今回のことも、全面的に受け入れるとは言わないが、曖昧にぼかす程度はするかと思っていた。
長次の言葉に、春市はうーんと頬に手をやった。
「本当に意味わかんないもん」
「意味わかんないって……そういうの嫌いってことか?」
「いや、嫌いとは言わないけど……勝手にすればいいとは思うよ?」
思いっきり自分に関係があるとは考えていない様子で、他人事のように言う。小平太と長次は視線を交わした。
「じゃあ、どういう意味?」
「んー。ほら、僕の家って、動物飼ってるでしょ」
「ああ」
春市の両親は調教師をやっている。山の中の広い敷地を持つ家には、たくさんの種類の動物達が暮らしている。
「だからだと思うんだけど。恋愛って、生殖活動の一環でしょ?だから衆道とかさあ、意味無いじゃない。だって子孫残せないんだもん。って思っちゃう」
「お、おお……」
――そうだった、こいつは思考回路がズレてるんだった!
今になって気づいた二人。
「なんで急にそんな話になるの?」
「いや!別に大したことは無いんだがな!」
小平太が手を振って言ったが、春市は未だ不思議そうにしている。
「……もしもの話だが」
と、長次が口を開いた。春市がなに?と返し、小平太は少し顔をしかめて長次を見た。
「もし、今まで仲良くしてきた奴に好かれていたと知ったら、どう思う?」
「えっと、今の流れ的に、それは同性の友達?」
「……どちらでも」
「ふーん」
春市は少し眉をひそめた。少し間を置いてから、はっきり答えた。
「どっちにしろ断るかな!困っちゃうしね!」


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