05-1



立花仙蔵は宣言した。
「――あいつに告白する!」
『……ええ!?』
もうすぐ六年生になろうとしている二月のことだった。文次郎達五人が仙蔵の片想いを知ったのは二年の頭であったから、それからもうすぐ四年が経とうとしている。
その間、じれったいというかむしろ呆れるほど何の進展もなかった二人であるが、どうして突然そんなことを言い出したのか。
「ど、どうした仙蔵、頭でも打ったか」
「黙れ文次郎。失礼な奴だな」
「でもそれくらいしか理由が思いつかないんだけど」
「なんでだよ!」
文次郎と共に伊作まで。仙蔵は顔をしかめたが、残念ながら他の三人も文次郎達と同意見らしかった。
「片想い相手に告白するというのはそんなにおかしなことかっ?」
「少なくともお前らに関しては」
「黙れ留三郎」
いやだって、と五人は顔を見合わせた。今までの二人を見ている限り、これ以上の進展があるとは思えなかった。
「……やめておけ」
「なっ、長次まで!」
今のところ五人の中で思考回路が常識的な長次でさえ、首を振った。さすがにショックな仙蔵に追い討ちをかけるように小平太が決定的なことを言った。
「だって仙蔵、お前完全に春市のペットじゃないか」

白石春市、五年ろ組の生徒であり、立花仙蔵の長年の片想い相手である。
まずは友人から、ということで仙蔵がなんとか積極的になった結果、なぜか春市からペット――強いていうなら犬――扱いされることになってしまったのは随分昔のことだ。
それから約四年間。仙蔵と春市の関係性は、多くの学園生徒に『ペットと飼い主』として知れ渡っている。とてつもなく不本意だ。

「多分春市も仙蔵のことはペットだと思ってる」
「く、言い返せない……!」
「自覚有りかよ」
悔しそうに拳を握る仙蔵に、五人は哀れだなあと感じる。隣にいた伊作が思わず仙蔵の肩を叩いた。
「だから絶対脈無しだって。やめとけって」
「冷静になれよ、お前の専売特許だろ」
留三郎と文次郎が言うも、仙蔵は納得いかない表情のままむっと黙った。その様子に五人は顔を見合わせる。
「どうしたの、なんか今日は頑固だね」
「元々そういうところはあるけどな」
伊作と留三郎が言う。仙蔵は顔をしかめていたが、やがて口を開いた。
「……私達も、もうすぐ六年だろう」
「もうそんな時期かあ」
「最高学年だって。なんか実感ないよねー」
「文次郎が最高学年とはな」
「あ?なんか言いたげだな留三郎!」
「こいつらも相変わらずだなー」
「まったく、成長してないんだからぁ」
「もそもそ」
「お前ら!!話を逸らしにかかるな!!」
仙蔵が声を上げると、五人は口をつぐんだ。
「……で、六年になるのと告白と、何が関係あるんだよ」
「関係は大ありだろ!あと一年しかないんだぞ!」
「逆に言えば、あと一年あるんだよ。そんなに焦らなくても」
「甘い!」
伊作の言葉に、仙蔵はばしっと畳を叩く。ちなみにここは五年長屋の仙蔵と文次郎の部屋である。
「お前ら、さっき自分達が言った言葉を忘れたか!」
「えー?」
五人はそれぞれ首を傾げた。仙蔵はそれを見てはあと息をつく。
「とても不本意だが、私は今のところ春市に全く意識されていない!」
「自分で言った……」
そしてかなり打ちひしがれていた。
「そっか。よく考えたらスタートラインにすら立ってなかったな、お前」
「はっきり言いすぎだ……」
長次が小平太を小突くと、あははごめん、と笑う。気持ちがこもっていない。
「下手なアピールではまた変なことになり兼ねないからな……さすがに告白すれば嫌でも意識せざるをえないだろうという作戦だ」
「作戦っつーか、ヤケ起こしてるように見えるんだけど」
「留三郎、水差さないであげなよ」
伊作が言う。


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