04-5



見世物を見ていた客が、何人か小屋に戻ってきた。受付に春市が座り、仙蔵達は言われた通りに客を席に案内していた。しばらく客は増えていったが、そのうち誰も来なくなり、ようやく春市が受付を仕舞って小屋に入ってきた。それから不思議そうに舞台を見ている六人に駆け寄った。
「なあ、今から何が始まるんだ?」
「仙蔵くん達は、外に出ててもいいよ」
文次郎の問いには答えず、春市は言った。よくわからない四人は顔を見合わせて、小平太と長次は首を振った。
「私達は残るぞ。な、長次」
「もそ」
「そっか」
「なあ、何なんだ?」
仙蔵が聞くと、春市は眉を下げて答えた。
「――競売、かな」

わっと声をあげて席を立った客の一人と、その近くにいた客達は肩を落とした。一人は嬉しそうに舞台に上がり、残りの客達は残念だと口々に言いながら、小屋の隅に移動した。
「では、駿一は某さんにお頼みします」
「ありがとうございます!」
その人は春市の父から駿一の手綱を渡されて、嬉しそうに頷いた。
駿一と某さんが裏から外に出ていくのを見て、留三郎は思わずというようにそれを追いかけてしまった。春市はあっ、と声を漏らしたが、結局引き止めることなく見逃した。
「……この見世物のメインはこれか」
「うん。ごめんなさい、隠してて」
仙蔵が呟いた言葉に、春市は眉を下げた。
三日間の見世物で、客は動物達を吟味する。そうして気に入ったものがいれば、最終日の夜にこうして競売に出かけ、購入する。元々見世物の目的は、競売に参加する客に対する動物達のアピールの場だったということだ。
白石家の家業は、色々な動物を調教し、それを客に売ることであった。年に一度の収益で、来年売り物にする動物を育て上げる。チケットを売っていて、それを買っていく客の多くが良い着物を着ていることに気づいていた。そもそもチケットの値段がそれなりにする。年に一度だと言うし、客も多いし、人気だからだろうと思っていたが、どうやらそういうわけでもなかったようだ。調教された動物を買うのは、裕福な富豪ばかりである。
舞台にまた違う動物が上がってきた。それを見て、仙蔵は目を伏せた。
「――次は、こちらの白猫、カオリです」
カオリが、みいと鳴いた。

* *

「じゃあねー」
「また学園で」
「うん!ありがとうねえ」
伊作と留三郎が二人揃って帰っていった。文次郎と小平太と長次は既に帰っているので、あとは仙蔵だけである。春市が不思議そうに仙蔵に向き直った。
「仙蔵くんは、どうしたの?」
「いや、ちょっと聞きたいことがあってな」
「なに?」
春市は首を傾げた。仙蔵は一度えっと、と口ごもって、心無し小さな声で言った。
「……お前、小平太と長次はともかく、残りの三人とは仲良かったのか?」
すると春市はきょとんと目を丸くして、可笑しそうに笑った。
「なにそれ。そんなこと気になった?」
「いや、ちょっと……」
そんな話は聞いたことがなかった。以前から彼らに春市のことは話していたが、彼らから春市の話を聞いた記憶はなかったのだ。もし仲がよかった上で何も聞かなかったとしたら。
――仲間外れ、か、変に気を使われたか。
「いや、本当は別に。何度か話したことはあるけど、友達ってほどではなかったかな」
しかし春市は苦笑しながら答えた。仙蔵は意外な答えに目を瞬かせた。
「え、じゃあなんで呼んだんだ?」
「うーん……」
春市は頬に手をやって、小首を傾げた。
「ほら、仙蔵くんは彼らと仲良しじゃない。一緒の方が楽しいかなって」
「私?」
「仙蔵くんに楽しんでほしいなーって。あはは、照れるね」
春市は本当に照れているように、頬を少し赤くして手をゆらゆらとさせる。そんな反応は初めて見たので、仙蔵までなんとなく気恥ずかしくなった。
「……でも、楽しくなかったかな」
春市が沈んだ声で呟いた。仙蔵が首を傾げると、目を細めて俯いた。
「仙蔵くんがお世話してた子達、たくさん出ていっちゃったから……」
ペットとしての犬猫は人気が高い。二日前の競売で、仙蔵が世話をしたうちの半分以上が買われていった。
「ごめんね。嫌だったでしょ」
「……まあ、確かに悲しいといえば悲しかったが」
思ったより素直に言葉が出て、仙蔵は少し驚いた。ああ悲しかったのか、とむしろ今更気づいた。
「……でも、楽しかったぞ」
仙蔵が言うと、春市は顔を上げた。
「……本当?」
「ああ」
そこで春市はやっと嬉しそうに笑った。
「えっと、また来年も、来ていいか?」
「……うん!ありがとう!また頼むね!」
「今度は普通に頼めよ。わざわざ追いかけ回すな」
「わかった!」
春市は大きく頷いた。
――そういう仕事だから、私がどうこう言う話じゃないし。
――今回はこいつのルーツが知れてよかったということにしよう。

お家の話
[あとがき]



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