04-1



ぐっと腰が引かれて、あっと声をあげて尻餅をついた。
「わーい!僕の勝ち!」
仙蔵は後ろからぱたぱたと駆けてくるそいつを振り返った。満面の笑み。ああ、もう。
「わかったわかった。今度はどんな罰ゲームだ?」
「罰ゲームってなに!違うよー」
ぷくっと頬をふくらませて不満げにしながら仙蔵の腰の縄を解いた後、そいつはにっこり笑って言った。
「仙蔵くん、夏休みの中盤って何か予定ある?」
「中盤?別に無いけど」
「よかったあ。じゃあねえ、僕の家に来て」
「……え?」
「これ、地図ね。できれば八月一日から二週間くらい。大丈夫?」
「……あ、ああ、問題ない」
「じゃあよろしく!よかったあ帰る前に頼めて。じゃあ僕行くね!またねえ」
そいつは仙蔵に地図を握らせて一方的にそれだけ言うと、ぱたぱたと走っていった。門の前でもう一度振り返り、ぶんぶん大きく手を振って、それから学園を出て行った。
四年ろ組の白石春市。子どもっぽくて可愛らしいがれっきとした男。半月に一度の頻度で縄を片手に仙蔵を追いかけ回し、何かしらのお願いを突きつける。仙蔵の、片想いの相手。
――なんで、家に?
――春市の家に、お邪魔するってこと?
仙蔵はしばらく呆然と地面にへたり込んだままであった。今日から夏休みだというのに、あまり気が休まりそうにない。


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