噂話と二人についての考察-2



葉太郎を見つける前に、守一郎は別の人物を見つけた。
「おーい、三木ヱ門!」
「守一郎じゃないか」
名前を呼ぶと相手は振り返った。田村三木ヱ門、優秀とアイドルを自称するクラスメイト。現在探している葉太郎とは同室でよく一緒にいるが、今日三木ヱ門の隣にいたのは葉太郎より高頻度で一緒にいるものだった。
「えっと、ユリコの散歩?」
「そう!こんな天気のいい日に、私の火器達を薄暗い倉庫に閉じ込めておくなんて非道なことがあろうか、いやない!」
力強く言われて、そうだな、と肯定してしまった。確かに今日は雲一つない青空、暖かくて散歩日和だ。かといってごろごろと石火矢を散歩させる光景はまだ守一郎には見慣れない。
「守一郎、なにか私に用か?」
「あー、用って程じゃないんだけど」
「私もあまり暇じゃないんだ、この後は他の子達とも散歩しなきゃならないから!」
「そ、そうか」
楽しそうだなと言うと、当然と返ってきた。守一郎が若干引き気味であることは、ユリコに笑いかけている三木ヱ門には見えていないようだ。
守一郎は元々、火薬を使った忍者の最新技術に惹かれてこの学園にやってきた。火器の扱いが得意で長期休みには鉄砲隊の人に稽古をつけてもらっているらしい三木ヱ門がクラスメイトにいたことはよかったと思う。質問すれば沢山――聞いていないところまで――答えが返ってくるし、案外面倒見がいいところもあるのか、よく守一郎のことを気にかけてくれたりもする。良いクラスメイトだ。
そう思うが、未だこの火器達との逢瀬には辟易することもある。
「実は、タカ丸さんに気になる話を聞いたんだけど」
「気になる話?」
折角だから三木ヱ門にも話を聞いてみよう。守一郎がそう考えて話し出すと、三木ヱ門はユリコから目を離して守一郎を見た。守一郎はうんと頷いてから――

「だーれだっ!」
「はっ!?」

――話し出そうとしたのに。
守一郎は一度開いた口を閉じて、苦笑した。
「葉太郎!やめろ馬鹿!」
「さすが三木ヱ門!すぐわかったねー」
「わかるわ!」
「愛の力?」
「んなわけあるかッ!」
結構な勢いでキレてるように見えるが、三木ヱ門の目を覆ってけらけら笑う葉太郎は全然気にしていないらしい。学園にやってきて日が浅い守一郎だが、この二人のやりとりにはさすがにすっかり慣れていた。
「――で、二人は何の話してたのー?また火器の話?」
三木ヱ門の目を隠したまま、葉太郎は守一郎に向かって尋ねた。
ちょっと目が怖い……気がしたが葉太郎はすぐに柔らかく笑ったので気のせいかもしれない。守一郎はまた苦笑して、いや、と返事をした。
「ただの世間話」
「本題に入ろうとしたところでお前が来たんだ、さっさと手をどけろ!」
「なんだ、そうなの」
言いながらあっさり手をどけた葉太郎に、三木ヱ門は睨むような目をする。いつも通りのじゃれあいだ。
「で、本題って?」
「丁度いいや。葉太郎にも聞きたいんだけど」
守一郎の言葉に、なあに、と葉太郎は首を傾げた。

「――この学園に"天女様"が来た事あるって、本当?」


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