噂話と二人についての考察-1



じゃあね〜、と手を振って煙硝蔵に向かう斉藤タカ丸に手を振り返して、浜守一郎は少し眉をひそめて首を傾げた。
最近忍術学園へ編入することになった守一郎は、まだこの学園の事について詳しいとは言い難い。同じく編入生であるタカ丸もそう変わらないと言えば変わらないのだが。
タカ丸は守一郎の髪の手入れについて時々顔をしかめるのだが、この日この放課後、偶然顔を合わせた守一郎に声をかけたのもそういった理由だった。あっと声を漏らして駆け寄ってきて、下結びの守一郎の髪を撫でてから、もう、と不満気に呟いたのだ。
――『時間があれば髪結いしてあげるのに』
――『何か用事があるんですか?』
――『今から火薬委員会の仕事だよー』
残念そうに言いながらしばらく手櫛で守一郎の髪を梳いていたタカ丸が、そういえば、と言った。
――『前に、すっごく綺麗な髪の人がいたんだよ』
――『六年生の?』
――『いや、立花くんじゃなくて――』
続いた言葉は守一郎を驚かせた。守一郎がそれについて聞き返そうとしたところ、もう時間だと言ってタカ丸が去って行ったのだ。
――これは他の人達にも話を聞かなければ。
タカ丸はどこか抜けている面があるから、さきほどの信じられないような発言も彼の妄想という可能性が無きにしもあらず。なかなか失礼な考えだと自覚はしないまま、守一郎はタカ丸の発言の裏を取るべく人を探し始めた。

最初に見つけたのが平滝夜叉丸であったことは幸運か不運か。いや用具委員である己が不運であるというのはあまり認めたくないので、おそらく幸運だったのだろう。タカ丸の発言が妄言ではないことが証明され、その上早々に有力情報が掴めそうだ。多少の自賛には目をつぶろう。
「そういうことなら、あいつに聞いてみればいい」
「あいつって?」
「お前のクラスメイトだし、基本暇だし、そのあたりの事情については結構詳しいはずだ」
いやだから誰だよと守一郎が言い返そうとしたところで、滝夜叉丸は続けた。
「葉太郎だよ」
「森林葉太郎?」
繰り返した守一郎に、滝夜叉丸はこくりと頷いた。
森林葉太郎といえば、守一郎が編入した四年ろ組のクラスメイトだ。温和な性格だが、あまり目立つ生徒ではない。そんな彼がどうしてこの不可思議な話に関わっているのだろう。
守一郎は少し疑問を感じつつ、滝夜叉丸に言われた通りに葉太郎を探し始めた。


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