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食堂に着いて中を見渡すと、たくさんの井桁模様の中に青色が一人混ざった一団を見つけた。
その青色に近づいて声をかけると、青色が曇った表情で何事か言った。
俺はそのまま食堂を出ていく。裏手に回った。

紫色が、頬を染めて小さく笑った。堪えきれないというような、幸せそうな笑みだった。

頭がかあっと熱くなって、目の前が霞んで、負けたという言葉が思考を埋め尽くした。

赤い蛇がその一部始終をじっと見ていた。
まさかこうなることを予測したのか、などと有り得ない考えがちらっとよぎった。

俺はその場で立ち尽くしていた。
そうして胸がじくじく痛むのを耐えていたのだ。

* *

目を覚ますと四年長屋の自室にいた。
畳の上に寝転がって昼寝をしていたのだったと思い出す。
高めの澄んだ声が聞こえた。
「葉太郎、起きろ。夕飯の時間だ」
「……三木ヱ門」
同時に遠くで鐘の音が鳴った。身体を起こすと、同室者は忍たまの友を閉じ、文机に広げていた紙をがさがさとまとめているところだった。真面目な彼はよく文机に向かっている。
「んー、変な夢見た」
「変な夢?」
軽く伸びをして立ち上がる。部屋を出て、廊下で三木ヱ門が来るのを待つ。
「どんな夢だ」
「……どんなだっけ」
忘れてしまった。
「なんだ、それ」
三木ヱ門が軽く笑った。
長屋からばらばらと出ていく級友達の後ろ姿を眺めながら歩く。
「やっぱこの時間は人が多いよねー」
「今日は早く夕食と風呂を済ませて寝ようって言ったのお前だろ」
「まあそうなんだけど」
隣を見ると三木ヱ門がこちらを見上げるようにしていたので一瞬驚く。相手も驚いたようで、はっと目を丸くしてから、顔をそむけた。
「なんだ」
「……んー」
じっと少し三木ヱ門を見てから、
「えーい」
「ああーもう!またか!」
気の抜けた声を上げながら後ろをとって、三木ヱ門にのしかかるようにした。いつも通りに苛立つような声を上げて立ち止まる三木ヱ門。
「離れろ、歩きづらいだろ!」
「三木ヱ門かわいいー」
「上背が無駄にあるから迷惑だ!」
実は俺は三木ヱ門より頭一つ分くらい背が高い。
連れてってー、と笑いながら言えば、離れろ!と怒鳴るような返答。三木ヱ門が歩き出したので仕方なく腕を解く。
こうやって三木ヱ門を軽く苛立たせるのが好き。のしかかると目の前にくる耳が赤くなるのを見るのが好き。ちゃんと反応を返してくれるのが素直でかわいいと思う。本格的に怒りだすのを回避するように離れるとぶつぶつと不満を零して尖る口が好き。軽いじゃれあいにすぐ赤くなる頬が好き。
――俺はこの、田村三木ヱ門が好きだ。



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