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――ほら!
――あはははっ!なにそれー!
――似てるだろー?
――似てる似てるー!あはははっ!
――何やってんだお前らは。
――お父お父、三ちゃんがお父の顔してるー!
――おー、すごいもんだなあ。
――やった!
三ちゃんは、そういえば変装が得意だったのを思い出した。

* *

「こんにちはー」
「どーも」
顔を出したのは、あの五人組だった。
「いらっしゃいませー」
「あけましておめでとうございます」
「あら、ご丁寧にありがとうございます」
兵助さんが挨拶と共に、紅白の包みを差し出した。
「何自分の物みたいに渡してんの!」
「それ、じいさんから」
「ええ?」
「あらあ、今年もありがとうございますとお伝えして頂戴ね」
奥さんがにこにこと言うので少し驚く。
「毎年なんですか?」
「そうなのよお。もう十年以上続いててねえ」
「あれ!そんなに長いお付き合いで!?」
「言ってなかったかしら?」
あと三ヶ月ほどでここに来て一年になるが、まだまだ知らないことは多そうだ。
「お孫さんが多くてねえ。三郎くんでお使いは三代目かしらあ」
「せ、世代交代ですか……」
「奥さんってば面白いなあ」
勘右衛門さんがけらけら笑った。
「今度は庄左ヱ門か彦四郎だと思いますよ」
「あらあら、それは楽しみねえ」
三郎さんの言葉に、奥さんはふふ、と笑った。
「なんで交代するんですか?」
「まあ、家を出るからだろ。強いて言えば」
三郎さんはそんな風に言って、八左ヱ門さんと雷蔵さんが顔を見合わせて苦笑した。
「はあい、お茶持って来ましたよお」
「あ、すみません奥さん!話し込んでしまって!」
「いいのいいの」
また忘れていた。三郎さんがくすくす笑った。
「一年経っても慣れないんだな」
「す、すみませんね!」
あと、まだ一年経ってませんし!
「そういえば、あんた年末に雷蔵にお茶を出したって?」
「はい、そうですよ。本当に雷蔵さんかどうか見分けるのに」
「ほおー」
三郎さんは頷いて、面白そうに私を見た。
「雷蔵に出すくらいだから、随分自信があるんだな」
「あら。なら今度は三郎さんにお出ししますよ。リベンジです!」
「ちゃんと上達してるだろーなあ」
「大丈夫ですよ!」
そう言い合う私達を見て、他の四人が奥さんと笑っていた。
「一年で随分仲良くなりましたよね」
「本当にねえ。若いっていいわねえ」
微笑ましげな彼らに気がついて、私と三郎さんが同時に首を傾げるのは少し後。

* *

特になにも変わりなく見えた。まあ、よかったと言えばよかったのだろう。
――どうしようかなあ。隠し事を始めてそろそろ一年が経ちそうだ。
元々は適当に二三ヶ月で種明かししてやろうと思っていたのだ。いや、本当に。
――しかし、思っていた以上にお互いが変わったことに気づいてしまって。
――怖くなった、のだろう。
あいつは随分と大人らしくなった。私の知っていたあいつは、誰にでも気兼ねがなくて子どもっぽくて馬鹿だった。それが、すっかり敬語が板に付き、思ったことの半分も言葉にせず、必要な学を身につけて。
私は、どんどん普通から逸脱して、薄暗いところに向かう。もちろん嫌なわけではない。自分で選んだことで、仲間達もいる。立派な忍者になってやろうと笑い合った。
――だから、もう離れるだけ。
――もうあいつと私の線が交わることなんて無いのだと思った。村を出る時にすれ違って、それから遠くなっていくばかり。
このまま、"三郎さん"と"三ちゃん"は別物でいた方がいいのかもしれないと思う。
あいつの目を見ていれば、あいつの気持ちくらいすぐにわかった。あいつは"三郎さん"に恋をしている。
――あいつが"三郎さん"を選んで"三ちゃん"を忘れて、そして完全に私とあいつの仲が切れたら、それが一番良いのではないか。



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