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いよいよ必要に駆られて、先日新しいマフラーを買った。薄桃色と赤色のタータンチェック、どこでも見る無難な柄。他にあまり好みに合うものが見つからなかったから仕方がない。私は基本的に冒険心が薄いのだ。
すでにハイソックスはやめて黒のタイツを履くようにしていた。ジャケットの下には白のセーターを着ているし、ここにマフラーが加わればあとはコートを着るしか防寒の余地がなくなる。もう十二月になろうという今この格好で、今年の冬が乗り切れるだろうか。いや、乗り切るしかないんだけど。

暖房がよくきいた電車内は暖かく、この時ばかりはマフラーも必要ないんだけどな。マフラーを巻いた首元が少し暑いくらいだ。もうすぐ彼が乗り込むと思えば、一層暑い気がしてしまう。
やがていつものように電車が止まり、彼の足元がすぐ隣を通る。ドアが開くと足元がサッと冷たさを感じるが、すぐに閉まって走り出し、椅子の下のヒーターに当たっていればすぐにその冷たさは忘れてしまう。
なんとなくマフラーを口元まで引き上げて、ちらりと彼を盗み見た。彼はまだマフラーなどは使っていない。ジャケットの下にカーディガンを着て、それだけ。寒くないのかな、男の子だから大丈夫なのかな、なんて思って少し気恥ずかしくなった。

マフラーに顔を埋めれば、私が多少変な顔をしたって誰もわからないだろう。電車内でもやっぱりマフラーは必要かもしれない。首元は暑さを増すばかりに思えるけど。

* *

あ、マフラー。
と思ったのは先週のこと。マフラーを巻いていたのは俺じゃなくて、毎朝電車で一緒になるあの子だ。可愛らしい色合いのタータンチェック、女の子らしくて俺は嫌いじゃない。寒そうに顔を埋める様もなんだか小動物みたいだと笑いそうになって、慌てて無表情を取り繕った。

それから数日経った日曜日、ショッピングセンターに行っていた母親が夕方ごろ帰宅し、自室で来週の授業の予習をしていた俺を呼びつけた。予習を中断させられたことをちょっと不満に思いつつ、部屋を出て母親に何と問いかけると、呆れたような顔で袋を差し出した。
そろそろいるでしょ、全く、こういうものの準備は自分でやらないんだから、と小言を言われつつ中身を見る――あ、マフラー。しかも青と緑の、タータンチェック。
どうせ無難なやつじゃなきゃ文句言うでしょ、花柄とかあって可愛かったのに、と小言は続く。花柄なんかにされたら絶対に使わないけど、そもそもまだマフラー使うほど寒くないけど、去年まで使ってたやつでも大丈夫だと思ってたんだけど。しかし素直にありがとうと言うと、母親はちょっと不思議そうにして、妙に嬉しそうじゃない、と返してきた。それには曖昧に笑っておいた。
それほど寒くないと思いながら、月曜日には早速巻いているのだからそりゃあ嬉しいんだろう、俺は。
タータンチェックのマフラーなんてありがちなもので、母親が勝手に買ってきただけで、偶然でさえない気がするけれど。彼女と同じものが一つ増えたのが、素直にとても嬉しかった。

* *

あ、マフラー。
私じゃなくて、彼。月曜日という少し憂鬱なこの日の始まりに、私はいい日になりそうだと直感した。あまりに単純だ。
この日もまた彼の姿を一目と盗み見た。そして彼が首元に緩くマフラーを巻いているのに気づいた。青と緑のタータンチェック、思わず自分のマフラーを引き上げて俯いた。薄桃色と赤色のタータンチェック。ああ、もう。
こんな一番ありがちな柄が被ったからって、何をそんなに喜んでいるのか。自分でも呆れるくらいだ。ただの偶然、偶然どころかこんな柄じゃあ被っても何らおかしくない。
でも似合ってたなあ、いいなあ、素敵だなあ、やっぱり。
自分の平凡な選択にこれほど感謝したことはない気がする。


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