05



「おお、やっとるな」
「あ、木下先生!おはようございまーす」
「おはようございます、先生」
七咲先輩と朝の餌やりをやっていると、珍しく木下先生が生物小屋へやってきた。
「どうしました?」
「ちょっと学園長から命を受けてな。三日ほど、夜丸を貸してくれ」
「……なるほど、了解です」
命を受けて、ね。夜丸は若い雄の鷹だ。速く飛ぶのが得意で、体力もある。今一番働き盛りの、おとなしいやつ。
餌やりの続きは七咲先輩に任せることにして、夜丸を使役するのに必要だろう準備を手伝うことにした。ちょっとした食料や縄、救急用の薬草など。どうやらこの後すぐに出発するらしい。
「任務ですか、お気をつけて」
「まあな、大丈夫だ」
そりゃ木下先生ほどの人だから、大丈夫だろうけど。
「……ところで、竹谷」
「なんですか」
「七咲のことだが」
七咲先輩?と首をかしげる。そういえば、元はと言えば木下先生が七咲先輩に生物委員会――と俺の宿題――の手伝いを提案したのだったか。
「どんな様子だ?提案しておいて、あまり様子を見に来てやれていないが」
「ああ、大丈夫ですよ。真面目に仕事手伝ってくれてて、助かってます」
「そうか……」
木下先生は少し考え込んでから続けた。
「七咲から何か聞いたか」
「何かって?」
「ふむ……まだか……まったく……」
俺の返答を聞いて、なんだか呆れたようにため息をついている。なんの話だろうか、俺には心当たりがまるでないのだが。
「すまん、なんでもない」
「え、はあ……」
「……一つだけ言っておくと――」
木下先生が続けた言葉に、俺はやはり首をかしげるだけだった。


夏休みが終わるまであと一週間に迫っていた。そろそろ帰省していた生徒が帰ってきはじめる頃だ。
「――ついに終わった〜〜!」
「はい、お疲れ様……思ったより時間がかかっちゃったわ」
七咲先輩が呆れたように言う台詞については、俺は苦笑するしかない。俺の夏休みの宿題がついに最後まで終わったのだ。先輩によると、毎日ノルマを達成できればあと三日早く終わる予定だったらしい。先輩が思っていたより俺の宿題の進度が遅かったという話である。
「ようやく午前も私から解放されるわねえ」
「え、あーそっか……」
七咲先輩や俺に用事がない限りは、毎日午前中に宿題をするのが日課だった。それが終わったのだから、先輩と午前いっぱい一緒にいる理由がなくなってしまった。
――宿題が終わったのは嬉しいが、これは少し残念だ。
「なに、残念そうね」
「えっいや、そのー」
慌てて取り繕おうとするが、七咲先輩はふふっと笑って手をひらひらとさせた。
結局未だに、先輩の方が俺より上手だ。
「お昼食べましょうか」
「……はーい」
それが、いつの間にかそんなに嫌でもなくなったのだ。


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