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じりじりと熱い日の光、風はない。ここ最近雨は降っていないので、からっとした暑さ。
夏休みに入って数日。ほぼすべての生徒は実家に帰省してしまい、少し前まで騒がしかった校庭の方も校舎の方も、長屋の方も静まり返って、うるさいのは蝉の声ばかり。
「……暑いのはわかるけど、もっとシャキっとしろよなあ」
つい笑ってしまうほど、我が最愛の動物たちは生物小屋の中でだらっと寝転んでいる。
生物委員会委員長代理の身としては、夏休みだからといって、飼育している生き物たちの世話を放り出すような無責任はできない。夏休みでも残っている教員はいるから任せて帰省してもいい、と木下先生などは言ってくださったが、これは俺の責任感の問題である。大切な彼らに対する責任は俺たち生物委員会、その委員長代理にあるのが当然。どうせ帰省したところで何をするわけでもないし、生き物たちのことで落ち着かないのも目に見えている。いや、先生たちを信用していないってわけではないけど。
そういうわけで、いつもつるんでいる四人も全員いなくなった学園で、俺は生き物たちのために毎日献身的に働いている。今日も朝から一人でゆっくり餌やり、掃除、薬草園の手入れなどをしていた。空は橙に暮れ、先ほど夕食の時間を告げる鐘が聞こえた。生き物たちには朝夕二回の食事を与えることになっていて、最後にこの小屋の奴らに餌をやり、一日が終わろうとしている。
その小屋の中には、暑さにやられたか影に伏せている数匹の犬たち。その中から、一匹の若い犬がわんっと声を上げてこちらに寄ってきた。茶の毛並みをしていて、耳の先と腹側の毛が白い。
「おー?二号は元気だなあ」
答えるようにわんっとまた一鳴き。飼育している犬の中では一番小柄なこの犬は、去年委員長をしていた先輩が裏山で見つけてきたのだ。二号、というのはその先輩が安直につけたもの。普段略称で呼んでいるだけで、正式には『タイチ二号』という。二号は最初こそ人間を警戒している様子であったが、今では一番人懐こくなってしまった。
二号たちに餌を与えて、片付けをしてから小屋の戸締りを確認。よしと頷いてから、中の犬達にお休みと告げると、ふんと鼻を鳴らす答えが返ってきた。二号はご機嫌にわうんと笑った。
さて、俺も夕飯食べて寝るか、明日は散歩もさせなくちゃ――と考えながら長屋に向かっていたその時だった。

「あら、あなた、竹谷くんね?」

女の人の声。少し低めだが綺麗に通る声。俺の名前をはっきりと呼ぶ澄んだ声。
しかし忍たま生活五年目の俺にとっては、反射的にギクリとしてしまう声。

「――く、くのいち教室六年生の、七咲菜々先輩……」
「説明的なセリフ、ありがとう」

にっこりと綺麗に笑う黒髪の彼女。忍たまにとっては恐怖の存在、くのいち教室の数少ない六年生である先輩。
――どうやら、俺の今日が終わるにはもう少しかかるようだ。


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