07



それから三日後には、いつもつるんでいる四人も学園に戻り始めた。一人で寂しくなかったかーっとからかうように言われたが、こちとら今年の夏休みは珍しく綺麗な先輩と一緒だったよ。
夏休み中に鈍ったからと、学園に戻ってきたみんなは鍛錬に励んでいて、俺もそれに付き合うようになった。朝と夕の餌やりをする以外で七咲先輩と話す機会はなく、あの夜以来、彼女はいつも通りのしっかりして真面目で俺より上手な先輩だった。


「……あの、先輩、夏休みが終わったらどうするんすか」
「どうするって?前と同じよ」
「……えーっと、あの、生物委員会の手伝いとかは」
「してなかったでしょう?」
「で、ですよねー、あはは」
そう言うしかないじゃないか。七咲先輩は忙しい最高学年、そろそろ就職のことも考えなきゃいけないんだろうし、忍たまの生物委員会の手伝いなどしている暇はない。
――でも、そんなあっさり言わなくてもいいじゃないか。
「あ!でも気が向いたら遊びに来てくださいよ、こいつらも喜びます」
「……まあ、うん」
珍しく歯切れが悪い返事だ。不思議に思ったが、ちょうど片付けが終わって先輩が小屋を出てしまった。
「竹谷くん、お友達と朝ご飯でしょう。道具は片付けておくから行ってきたらいいわ」
「え、そんなの悪いですよ」
「大した仕事じゃないし」
七咲先輩はそう言って手をひらひらとさせた。しっしっという感じである。俺は犬じゃないんだから。
友人たちが帰ってきてから、先輩と食事をすることはなくなった。帰ってきたという話をすると、じゃあ私が作る必要はないわね、とあっさり言われてちょっと残念だった。まあ、この夏休み中がおかしかっただけで、それが自然なんだけど。
結局お言葉に甘えて、先に五年長屋に戻ることにした。また夕方にね、という約束はできているが、このもはや当然のようになったやり取りは明後日には無くなってしまうのか。
はあ、と思わずため息がこぼれた時。
「――おーい、八左ヱ門!」
「どーいうことだよぉ、こらーっ」
「イッテ!?なんだよ、三郎、勘右衛門!」
急に背中に衝撃があったと思えば。学級委員長委員会の二人がバシーンと音がなる勢いで俺の背中を引っ叩いたらしい。
「朝飯ができたから呼びに来たっていうのに」
「どうも八左ヱ門くんったら幸せそうですねえ?」
「お前らは面白そうだな」
『当たり前だろうが』
ニヤニヤと肩を組まれて思わず顔をしかめる。怒るなよー、と二人は笑う。
「真面目な話、なんで七咲先輩が八左ヱ門の手伝いしてんだよ」
三郎が腕を離して言った。うんうん、と勘右衛門も頷いている。
「なんでって……夏休みの間、手伝ってくれてたんだよ。木下先生の提案っていうか、暇だからって」
「えーっまじ、それ」
「八左ヱ門のことだから、一人で寂しく動物たちと戯れてるのかと思ってたのに」
うるせえ。動物たちと戯れてたら寂しくないわ。
「あの七咲先輩とずっと一緒だったって」
「罠とか仕掛けられなかったか?」
「されねーよそんなこと」
『えーっ』
二人は目を丸くして、それからふうん、と呟くと肩を落とした。
「なんで八左ヱ門にそんな幸運が訪れてんの?」
「害がなけりゃ、あんな美人とずっと一緒とか羨ましいっつーの」
そう言われて、ようやく気がついた。そもそもこの俺に、毎食女子の手料理というのは。最初は女子というよりくのたまだと思っていたからその延長で考えていたが。
――よく考えれば、俺、夏休み中“好きな女の子”とずっと一緒にいたってことだよなあ。
七咲先輩が“好きな女の子”になったのは途中からではあるが。
確かに、俺にしては相当、もう万が一レベルの幸運じゃないか。
そんな夏休みが終わり、以前と同じく授業三昧の日々が帰ってくるのだ。


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