EP.06



「さて、始めましょうか」
――何を?
最近団結力が出てきたクラスメイト達の思いが被った。
「学校の中間テストが迫ってきました」
「そうそう」
「そんなわけでこの時間は」
「高速教科テスト勉強を行います!」
これ全部殺せんせーの台詞だ。わざわざ分けられているのは、それぞれ高速で動く殺せんせーによる分身達の言葉だからだ。
分身達は各々数種類の鉢巻を巻いている。生徒一人に一つの分身が配置された。マンツーマンで苦手科目を徹底復習してくれるらしい。私の前には、『英』の鉢巻を巻いた殺せんせーが立っていた。
ちらりと隣の席を見やると、寺坂の前にはNARUT○の鉢巻を巻いた殺せんせーが。
「なんで俺だけNARUT○なんだよ!!」
「寺坂君は特別コースです。苦手科目が複数ありますからねぇ」
「あははっ。寺坂ばーか」
「青海テメッ!」
笑いながら煽れば、寺坂は席を立った。殺せんせーがこら!と注意する。
「授業中に席を立たない!」
「青海さんも、他人を馬鹿にするんじゃありません!」
それぞれ担当の分身に怒られた。寺坂はちっと舌打ちして座り直し、私はすみませーんと軽い調子で謝っておいた。


次の日。
『さらに頑張って増えてみました』
――増えすぎだろ!!
昨日は一人につき一つだった分身が、今日は一人につき三つから四つに増えていた。なんでこんな気合満々で……。
「青海さん、英語は随分よくなりましたねえ」
「得意の数学を伸ばしてみるのはどうでしょう?」
「英語ももう少し先に進んでみますか」
「社会も少し苦手ですね、ちょっとやりましょう!」
ああ、なんか分身と共に声もブレてて聞き取りづらいな。そう思いながら、先生に捲られる数学の教科書のページを見てため息を吐いた。テスト範囲外なんですけど、そこ。
「青海さん、勉強は得意なんですねえ」
先生がなんだか嬉しそうに言った。私はその言葉に彼を一瞬無表情で見上げた。
「……えー、全然そんなことありませんよ」
そう言って笑ってみせると、先生は少し不思議そうに首を傾げた。


――第二の刃を持たざる者は、暗殺者を名乗る資格なし!!
――もしも君達が自信を持てる第二の刃を示せなければ、相手に値する暗殺者はこの教室にいないと見なし、校舎ごと平らにして先生は去ります。
――明日の中間テスト、クラス全員50位以内を取りなさい。
その激励と共に、私達E組は本校舎での中間テストに臨んだ。
結果は……。


母親は嬉しそうに笑って、頑張ったね、と私を褒めた。
「次の期末テストでは元のクラスに戻れるんじゃない?」
「なに言ってんの、こんなのマグレだよマグレ」
私は軽く手を振った。まったく、テスト結果なんか返って来なくていいのに。
クラス全員50位以内、というのは全く届かなかった。クラス平均は相当上がったものの、順位としては100位前後といったところだ。かく言う私も、50位以内ではなかった。
英語85点、国語79点、数学99点、社会66点、理科75点。合計点404点で、学内総合順位は57位。二年の学年末テストと比べれば、目が飛び出るほどの高成績だ。
母親は上機嫌で返ってきたテストを見ている。
「マグレなんかじゃないわ。あなたは元々、賢い子だったじゃない。大丈夫、期末テストはきっと良い成績をとれるわ。元のクラスにも戻れるわよ、ね、頑張ってね」
――どこか安堵した表情だった。
――馬鹿馬鹿しい。
私は上機嫌な母親を置いて、リビングを出て部屋に戻った。
――今さらA組に戻るつもりなど微塵も無い。
――誰のせいで、こんなことになったと思ってるのだろう。


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