EP.25



草むらから立ち上がって、寺坂が声を上げた。
「シロ!これ全部テメーの計画か!!」
「そういう事」
シロはあっさりと頷いた。下着ドロを重ねたのも、殺せんせーの周囲に盗んだ下着を仕掛けたのも、この合宿所の情報も、すべてシロがでっち上げたものだった。
「そうだ!中の様子が見えないと不安だろう。私の戦術を細かく解説してあげよう」
シロは得意げに話しだした。シーツに見せかけて殺せんせーを囲っているのは対先生繊維の強化布。環境を劇的に変化させるのは、私達が沖縄での暗殺で使った方法だ。イトナ君は常に先生の上をとり、対先生物質のグローブをはめた触手で攻撃し、触手同士がぶつかると一方的にダメージを与える。
「――俺の勝ちだ、兄さん」
白い壁の向こうから、イトナ君の声が聞こえた。
「――ええ、見事ですイトナ君。一学期までの先生なら殺られていたかもしれません」
続いて聞こえたのは殺せんせーの声。でもね、と先生は言った。
「君の攻撃パターンは単純です」
三回目ともなれば見切ることが出来る、と。
――どうやらイトナ君は今回も殺せんせーを殺せないみたいだ。
私は白い檻の外で、呆然と声を聞いていた。
――『今度はあなたが、イトナ君を助ける番です』
カッと明るい光が檻から漏れるのも、呆然として眺めていた。
――ああ、どうしよう。私、何ができるんだろう。
パアアッと目も開けていられない光が溢れて、私は腕で目を覆った。風に飛ばされないよう足に力を入れる。
ようやく収まった頃に目を開けた。殺せんせーがイトナ君をふわりと抱きとめて地面に下ろした。
「イトナ君……」
私は小さく名前を呼んだ。

――イトナ君、負けちゃった。

彼を呆然と見ていたら、様子がおかしいことに気が付いた。
「イトナ君!!」
思わず声を上げて駆け寄った。イトナ君は両手でかきむしるように頭を抱えていた。
「頭が痛い……脳みそが、裂ける……!!」
うわ言のように呻いて。

――頭を抱えて蹲る、その姿はまるで初めて彼に出会った時と同じに見えた。

「度重なる敗北のショックで、触手が神経を蝕み始めたか」
シロの淡々とした声が聞こえる。
「ここいらがこの子の限界かな。これだけ私の秘術を活かせないようではね」
大丈夫、と声をかけてみても、イトナ君に私の声など届いていないのは明らかだ。苦しそうな声を漏らして、痙攣するように震える肩、背。私は泣きそうに顔を歪めて、それに手を添えることしかできない。

「――さよならだイトナ。あとは一人でやりなさい」
――無情にそう言い捨てて、シロはイトナ君に背を向けた。

その背を睨み付けていると、殺せんせーの危ない!という声と共にフードを引っ張って後ろに飛ばされた。何かと思ったが、直後イトナ君の触手がぶわっと暴れたので理解。そのままだったらモロに攻撃を受けていた。
イトナ君は言葉にならない声で吠えて、ダンッと地面を蹴って壁を越えて外に出て行ってしまった。
――どうしよう、どうしよう。
――私、イトナ君を助けるなんてできるの?
「青海さん」
殺せんせーに呼ばれて、顔を上げた。先生はいつもの笑顔で言った。
「行きなさい」
「……でも、私……」
「あなたなら大丈夫。先生もみんなも、いつでも力を貸しますからね」
――私の刃は、先生達と、E組のみんなと、磨いてきたはずだと。

私は大きく頷いて、イトナ君が消えた闇を追いかけた。


『もういいよ。きっと掴んでみせるから』
『... User unknown ...』


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