EP.23



三班が班別行動の時に入った海底洞窟。残りの旅行を楽しみましょう、という殺せんせーの提案の下、三年E組は洞窟の前に集まっていた。
もうすっかり日が落ちて洞窟の中は真っ暗闇。ペアに一つずつ懐中電灯が渡された。私のペアは寺坂で、順番は狭間ちゃん達の後となっているが。
「なんかさあ、肝試しにしては悲鳴が少ないと思うんだけど」
先に入ったペアはもう何組かいるが、ホラー系に付き物の悲鳴が全く聞こえてこない。殺せんせーが分身して仕掛けを作っていると言うが、この分だとあんまり怖くないのだろうか。
私の呟きを聞いて、狭間ちゃんがふふ、と薄く笑った。
「私達が入ったらすぐに悲鳴があがるはずよ」
「え?狭間ちゃんか村松って怖がりだっけ?」
「私の本気を見せてあげるわ……」
おお?なんか狭間ちゃんが妙にやる気だけど、一体どうしたというのだろう。
「人手がいるし、俺等は四人で入ろうぜ」
「人手?」
「殺すんだよ、おばけ役を!」
「あ、楽しそう!」
「乗った!」
村松の言葉に私と寺坂はすぐに頷いた。狭間ちゃんでも村松でもどっちでもいいが、悲鳴を上げたところを笑うのも楽しみだし。寺坂も意外と怖がるかもだし。私は多分大丈夫、お化け屋敷とか平然としてるタイプだから。
順番が来て四人で洞窟へ入る。懐中電灯は狭間ちゃんと私が持って、入口から続く坂を下りていく。しばらく行くとペンペンと三線を弾く音が聞こえ始めた。
――来た!
懐中電灯を消してエアガンを構えたところで、予想通りヒュッと戻ってきた殺せんせーが狭間ちゃんの懐中電灯の光でぼんやりと浮かび上がる。
「ここは血塗られた悲劇の洞窟。琉、きゃ――――!!!!!!」
「えっ」
「化け物出た――ッ!!」
「あっ!」
語り中に撃ってやろうと思ったのに、殺せんせーは悲鳴をあげてマッハで逃げて行った。撃つタイミングを逃した私と村松は声を漏らした。
「くそ、腰抜かしたとこ撃とうと思ったのによ!」
「え、え?なんで逃げたの?」
村松は悔しそうに言うが、私はそれより語りの途中で逃げてしまった理由がわからず目をパチパチと瞬かせていた。
「これよ」
「ひっ」
私の前を歩いていた狭間ちゃんがくるっと振り向いたので思わずひきつった声が出た。
「子どもの頃から夜道で会うとビビられてたわ。ついたあだ名が、ミス肝試し日本代表よ」
「お、おう……お前が楽しいならいいけどよ……」
「もう、狭間ちゃん!脅かさないでよー!」
「可愛い悲鳴だったわね」
「うっさい!!」
お化け屋敷では平然としてるタイプな私が驚いたからか、他の三人が楽しそうにニヤニヤしていてすごく腹立つ。やめろまじで、油断してただけだし!
――っていうか、悲鳴が上がるって、殺せんせーの悲鳴かよ……。
結局、他人の悲鳴を笑うどころか私の悲鳴が笑われて終わった。ついてない。


その後も殺せんせーのものだろう悲鳴が度々上がったものの、やはり生徒の悲鳴は聞こえて来ず。その上殺せんせーの仕掛けも特に無く。あっさり外まで出てくれば、疲れ切った様子で地面に倒れている殺せんせーとそれを呆れたように見下ろすクラスメイトがいた。
「――要するに、怖がらせて吊り橋効果でカップル成立を狙ってた、と」
今時そんなことでカップル成立なんかするのだろうか。
「結果を急ぎすぎなんだよ」
「怖がらせる前にくっつける方に入ってるから狙いがバレバレ!」
途中置いてあったカップルベンチも何事かと思ったら。そりゃあ怖くないわ。
生徒達に口々に貶されて、殺せんせーは泣きながら顔を上げた。
「だ、だって見たかったんだもん!手ェつないで照れる二人とか見てニヤニヤしたいじゃないですか!」
「泣きギレ入った……」
「ゲスい大人だ」
結局中村ちゃんに諭されて、殺せんせーは泣く泣くあきらめたようだったが。
「何よ結局誰もいないじゃない!怖がって歩いて損したわ!!」
最後のペアが洞窟から出てきた。ビッチ先生と烏間先生ペアだ。見れば烏間先生の腕にぎゅうっと引っ付いているビッチ先生は、本当に肝試しを怖がっていたらしい。
――ああ、でもそっか。
「うすうす思ってたけど、ビッチ先生って……」
「うん……」
当事者二人以外の確信は揃っている。
「どうする?」
「明日の朝帰るまで、時間あるし……」
――くっつけちゃいますか!?
この暗殺合宿でますます結束が強くなった三年E組の生徒達と殺せんせー。全員の思考がまた被った。


そうして特別夏期講習という名目の暗殺合宿は幕を下ろした。結局ビッチ先生は中途半端な間接キスのみで終わってしまい、烏間先生は特に気にした風も無かったというオチであったが。
帰りの船から降りて、それぞれ家に向かう電車の中。私が降りる最寄駅の名前を繰り返すアナウンスが流れて、旅行鞄を持って立ち上がった私に狭間ちゃんが呟くような声で尋ねた。
――楽しかった?
私はその問いかけに今まで彼女に甘えていたことを思い出して、二、三度目を瞬かせた後。
――とっても。
と、短く答えて笑って見せた。
私の事情を狭間ちゃんに話したことは一度も無い。冷静で賢くて優しい友人は、よかったね、と小さく微笑んだようだった。

『少しは強くなれた気がするよ』
『... User unknown ...』


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