EP.20



――『今までサボっててごめんなさい。すっごく遅いと思うけど、これからみんなに追いつくから、私も仲間にいれてください』
夏休み最初の訓練で、全員が休校中の学校に集まっていた。
頭を下げた私に、みんなは顔を見合わせてから笑った。
――『なに言ってんだよ、もう全員仲間だって!』
――『一緒に頑張ろうね、青海さん!』


「ようこそ、普久間島リゾートホテルへ。サービスのトロピカルジュースでございます」
人のよさそうなウェイターが差し出すジュースを受け取って、影を探して辺りを見回した。なんせ日本の南端、沖縄だ。夏の沖縄なんて日差しが強すぎて嫌になる。私達三班の班別行動が海底洞窟巡りで、本当によかった。
「あ!お前らずりィ!」
「はあ?何がよ」
吉田が急に声を上げたので、私と狭間ちゃんは眉を寄せた。寺坂達三人がなんか憎らしげにこっちを見ている。
「っていうか、あんたらジュース貰ってないんだ?」
「ちょうど数が足りなくて、だってよ」
「あはは、かっわいそー!」
「テメッ、青海笑うな!」
思わず笑ったら寺坂に怒鳴られた。だってそれは運悪いでしょ。
「私のはもう口付けちゃったわよ」
「うわ!狭間ちゃんと間接キス狙うとか、許さないからね!?」
『誰が狙うか!!』
三人で声をそろえて言うな。それはそれで失礼だろうが馬鹿どもめ。
「青海のだったらまだよ」
「よっしゃ譲れ青海!!」
「はあ!?ちょっと狭間ちゃん!」
咎めるように言ったが、狭間ちゃんはしれっとした顔でまたジュースを飲むだけである。相変わらず時々厳しい。そして三人は既に誰が貰うかじゃんけんを始めていて、私の都合を考えろよお前らは!
「よっしゃ俺の勝ち!」
「あーっちくしょー!」
三回勝負で村松が勝ったらしい。
「あんたらガキ臭いよ」
「何とでも言えっ」
開き直るな馬鹿。腹立たしいが、まあ私は狭間ちゃんにもらえばいいかと思って村松にジュースをあげた。あっちは三人揃ってないわけだし、まあ私は奴らより精神的に大人ですからっ。村松は寺坂にゆすられて半ば強制的に半分近く持って行かれてるが、私と狭間ちゃんは女子らしくきゃっきゃうふふな感じで貰えるはずだしっ。
「ってことで狭間ちゃんちょーだい」
「もう無くなった」
「ええ!?狭間ちゃんの裏切り者!!」


班別行動中に計画の下準備は終わった。夕飯は船上の貸し切りレストラン。修学旅行で新幹線に酔ったことから期待していた通り、殺せんせーは船にも酔うらしい。日焼けで顔が見えない云々と囃し立てれば、奥の手の脱皮も使ってくれた。周囲を水で囲まれた水上のパーティールームで、一時間かかる三村君編集の動画で精神攻撃。そこまですれば殺せんせーの動きも相当鈍るはずだ。
――そんなことで超生物が殺せるかは半信半疑だが。今までになく手ごたえのある作戦だということは間違いないだろう。
人数と位置を把握させないためにパーティールームから出たり入ったり。映像が三分の二近く終わったあたりでフライボートに乗る人員は出て行った。事前に決めていた映像が流れたところで、私は所定の位置についた。そのすぐ後に、部屋にゆっくりと水が流れ込んでくる。殺せんせーは瀕死状態、大の弱点である水にはまだ気づいていない。
「――さあ本番だ。約束だ、避けんなよ」
七人が殺せんせーに銃をつきつける。あの銃が撃たれた時が作戦開始の合図になる。

パンッ、と七つの銃声が鳴った。


急激な環境変化に弱い殺せんせーの性格を見ての、木の小屋から水圧の檻への環境変化。生徒数人がライフルで張る弾幕によって先生の逃げ場を塞ぐ。そしてとどめの二発は、狙撃の腕がクラス一の二人。
――それでも超生物は殺せなかった。
「……まだ奥の手があったとはね」
ホテルへの帰り道。隣を歩く狭間ちゃんに言うように呟いた。
脱皮、液状化、それに次ぐ奥の手が、『完全防御形態』。すべての攻撃を通さない、エネルギーの結晶体に包まれた先生は、あと二十四時間はそのままだという。
――どうやらみんな、この計画に相当自信があったようだ。
かくいう私も、かなり落胆しているけれど。私こそ、思っていたよりこの計画を完全だと思い込んでいたようだ。
「っていうか、狭間ちゃんすっごい疲れてる?大丈夫?」
「平気……」
尋ねても一言で跳ねのけられた。しかしその言葉もいつもより大人しい。どうしたんだろ、と思いつつ私はそれ以降特に何も言わなかった。


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