EP.17



――教科ごとに学年一位を取った者には、答案の返却時、触手を一本破壊する権利をあげましょう。
――これが、暗殺教室の期末テストです。

「テメーら、ちょっとツラ貸せや」
「はあ?寺坂の分際でなに威張ってんの?」
「てめ、青海!!」
だって生意気だったんだもん。あくどい顔でニヤニヤしていたのに、私が返した途端いつものように馬鹿っぽく騒ぐ。うるさいうるさい。
「なんなんだ寺坂、一体」
「今回の期末、あのタコに一泡吹かせてやろーじゃねえか」
「どういう意味だ?」
吉田と村松が首を傾げる。私と狭間ちゃんもちょっと興味が出てきたところだ。
「五教科で学年一位を取った数だけ触手をぶっ飛ばせるわけだろ?」
「なに、あんたまさか本気で目指すわけ?」
クラスで一番勉強ができないはずの寺坂が。なんて無謀な。しかし寺坂はその問いには答えず、可笑しそうに笑った。
「そうだ」
「お前なんでそんな自信ありげなんだよ」
「何の教科だ?数学?理科?」
吉田と村松の言葉に、寺坂はふんと鼻を鳴らした。
「最初に言ったろうが。あのタコに一泡吹かせてやんだよ」
「まさか寺坂が文系科目で!?」
「そりゃあ事件ね」
「事件ってなんだよ事件って!」
狭間ちゃんの言い方も間違いじゃないよ。そんなことになったら槍が降るくらいの事件だ。
「もー。もったいぶってないで早く言いなよ!」
私が顔をしかめると、寺坂はニヤニヤと笑ったまま、私達に計画を伝えた。


本校舎の図書室で勉強していた人達が、あの"五英傑"と賭けをしたという。五教科で一位を取った数の多い方が負けた方に何でもひとつ命令できる、という内容だ。面倒な事になったなという気もするが、まあそれで士気が上がっているようだからいいのだろう。
二日間かけて行われる期末テストが終わり、三日後に成績表が返ってきた。
英語は中村ちゃん、社会は磯貝君、理科は奥田ちゃんがそれぞれ学年一位を取り、先生の触手を三本飛ばせることになった。国語と数学は残念ながら一位はどちらも浅野君に取られた。とはいえエンドのE組が大健闘だろう。
「さて皆さん、素晴らしい成績でした。皆さんが取れたトップは三つです」
赤羽君を連れ戻して、殺せんせーが教室に戻ってきた。足の触手三本に破壊予約済、の旗を立てて見せた殺せんせーは、緑の縞模様を示した。大方、三本程度ならどうってことないと思っているのだろう。
ガタリ、と私の周りの四席から人が立った。
「おい待てよタコ。五教科のトップは三人じゃねーぞ」
寺坂が声を上げた。殺せんせーは不思議そうに首を傾げて答える。
「三人ですよ、寺坂君。国英社理数、すべて合わせて――」
「はァ?アホ抜かせ。五教科っつったら――」
寺坂は、狭間ちゃんと吉田と村松と自分、四枚揃った解答用紙をひらりと教卓に載せた。
「国英社理――あと"家"だろ」
「家庭科ァ!?」
その四枚を手に取って、殺せんせーは悲鳴を上げた。
「ちょ、待って!!家庭科のテストなんてついででしょ!!こんなのだけ何本気で百点取ってるんです君達は!!」
「だーれもどの五教科とは言ってねーよな!」
「クラス全員でやりゃ良かった、この作戦」
教壇の前で笑う四人。それを見ていたクラスのみんなが、顔を見合わせた。千葉君が赤羽君を振り返って、言ったれ、とけしかけると、赤羽君はいつもの悪戯っぽい笑顔を浮かべた。
「"ついで"とか、家庭科さんに失礼じゃね、殺せんせー?五教科の中じゃ最強と言われる家庭科さんにさ」
そして赤羽君を皮切りに、クラス中が沸いた。
「そーだぜ先生、約束守れよ!!」
「一番重要な家庭科さんで四人がトップ!!」
「――合計、触手七本!!」
みんな随分たくましくなったものだよね。


「――ったく、青海があんなミスしてなきゃ、あと一本追加だったのによォ」
寺坂が不満そうに言った。ほんとにな、と吉田が頷く。
「しょーがないじゃん。ミスったもんはミスったんだから」
「しょーがないじゃねえよ!百億かかってんだぞ、百億!」
怒鳴られたところで私の家庭科のテストの点数は変わらないんだよ、寺坂君。
触手七本を奪う権利は、賭けの末A組から奪った島での合宿にて使うことになった。綿密な暗殺計画の下、確実に殺せんせーを殺すため。
――どうしようかな、私は。
触手一本無くなれば、動きが二十パーセント鈍るという。再生するのにもエネルギーを使い、それを考えれば触手一本が無くなるということは相当のハンデになるというのはわかる。
私の家庭科の点数は97点。
こんなことで殺せんせーの死亡率が変わるかどうかはわからない。が、まあ、個人的には。
――総合五十位圏内からは、その三点のおかげで免れた。それだけでも十分意味がある。


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