EP.16



ドォッと爆発音。すぐ後に勢いよく水が流れ出した。
「はっ!?」
一度水に呑まれて、なんとか水上に顔を出す。しかし勢いが強すぎる。地面に足を付けようにもすぐ流れにとられてひっくり返るだけだ。
――こんなの、何人か死ぬんじゃないの!?
波の向こうで殺せんせーが一人ずつ生徒を助けているのが見えた。そうか、水に突き落とすのは難しくても、触手を水に浸からせることは簡単なのだ。
寺坂が引き金を引いたあの銃は、爆弾の起爆装置。二人への合図なんて生温いものではなく。
息を継ごうとしてはあと呼吸した時。前からがばっと水が襲い掛かってきた。
――嘘、ちょ、やばい。
――何人か、って、私が……!
ごぽ、と水が口内に流れ込んだ。息が止まった、まずい、まじで死ぬ!
歪んだ視界で、殺せんせーは別の生徒を助けていた。
――手を伸ばした。何を求めたのだろう、私は。
――別に、死んだって構わないはずが。
伸ばした手に、ずるりと何かが絡まった。そのまま強い力で引っ張られて、ざざ、と水音が耳の横を過ぎた。
気付けば空中に放り出されていた。次の瞬間には硬い陸地に落ちていて、ごほっ、と口の中の水を吐く。
「よかったねえ。君、死んでたよ」
まだ音が聞こえ辛い中、昨夜も聞いた軽い声。シロの声だ。
顔を上げると、イトナ君がすぐ目の前で私を見下ろしていた。
「――なんで……」
問いかけるような小さな呟きに、イトナ君は何も返さなかった。
私が顔を上げたのを確認したからだろうか。イトナ君はすぐにその場から跳びあがって、殺せんせーの背後に降り立った。水から離れて何かを探す仕草をすしていた先生は、すぐには気づけずイトナ君の触手によって水の中に突き落とされた。

* *

――諦めていなかったから。
――だから伸ばされた手を取らなければと思った。
――なぜそんなことを思ったのだろう。
顔を上げた女は、理解しがたいという顔で俺を見ている。
――強く。
――強く。
――強く。

――さあ、俺は強いと証明しよう。

* *

ザバァンッ、と、みんなは沢に飛び込んだ。殺せんせーに吸わせるために薬物を混入した水が、イトナ君にも大量に降りかかった。
「どーすんの?俺等も賞金持ってかれんの嫌だし。そもそも皆あんたの作戦で死にかけてるし」
ついでに寺坂もボコられてるし、と小さく付け加えられた。
――赤羽君の作戦ってわけか。相変わらず、頭の回転が速い人だ。
「まだ続けるなら、こっちも全力で水遊びさせてもらうけど?」
してやられたな、とシロが呟いた。
「……帰るよ、イトナ!」
シロが声をかけた。が、イトナ君はぎっと目の前のクラスメイト達を睨み付けて動かない。
「どうです。みんなで楽しそうな学級でしょう。そろそろちゃんとクラスに来ませんか?」
殺せんせーが笑った。
イトナ君は数瞬の間を置いてフンと鼻を鳴らすと、バッと水底を蹴って岩場に戻ってきた。
「い、イトナ君」
名前を呼ぶと、イトナ君はこちらに少しだけ顔を向けた。
「ありがとう、助けてくれて」
「……」
笑ってみせても、イトナ君は何も言わずにシロを追って行ってしまった。


『生きたいのかな』
『... User unknown ...』


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