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「…まさか、本当に警察に届けないつもり?」

子供達に手を引かれて前を歩く女性を見ながら灰原は工藤を見た。

「んなわけねーだろ。」

工藤はベンチに置きっぱなしになっていた女性のスマホをハンカチで包みポケットにしまうと自分のスマホを操作し、先ほど撮った写真を添付したメールを送った。
送り先は、毛利蘭。


「工藤、私にも写真送っといてよ。」

「オメーにか?」

「うん。一応、零君にも送ろうと思ってさ。」

「ああ。そういう事な。」


三月は自身のスマホに工藤から画像付きメールが届いた事を確認すると、メールの作成画面を立ち上げた。

東都水族館で記憶喪失の女性を保護しました。
心当たりないかな。

宛先は『安室さん』画像を添付し、後は送信ボタンを押すだけ、と言ったところで三月の手は止まった。
今、自分が彼へこのメールを出したとして、一体何になると言うのだ。
彼は忙しい。こんな事にいちいち構っている暇でもないだろう。
三月の指は送信ボタンを押すことなく、スマホの画面は暗くなった。


さて、捜査は足でとも言う。まずは地道な聞き込みからだ…と工藤、灰原、三月班、子供達と記憶喪失の女性、博士と別れたもののどうやら子供達は聞き込みよりも遊ぶ事に夢中らしい。
このままでは効率も悪いと感じた三月は、工藤達とは別れ、単独で聞き込みをする事となった。

しかし、あれだけ特徴的な女性にも関わらず知っていると答える人間は誰1人としていない。
そう、とても特徴的なのだ。オッドアイだなんて。
そして外人なのにとても流暢な日本語。記憶喪失にも関わらず。

ふと外人でとても日本語が流暢だと言われて、FBIのジョディ捜査官やキャメル捜査官が頭に浮かんだ。
記憶を失ってもなお日本語が話すことができるという事は、彼女にとって日本語は自分にとても馴染んでいる言語という事なのだろう。

三月自身、昔に記憶喪失になった事があったが、その時は一部の記憶障害だったため、あまり参考にはならないと感じ、その考えは切り捨てた。


「…あの、この女性に見覚えはありませんか?」

「ああ、そのお客様なら、さっき子供たちとダーツで遊んで行かれましたよ。」


ダーツのコーナーでにこにこと愛想よく接客しているキャストに話しかけると彼は笑顔で答える。
なんだ、子供達とここに来たのか。
聞かれているとは思うが一応、と「それ以前に見かけたりとはしませんでしたか?」三月が問いかけると、キャストの男性はさっきも子供にそう聞かれました、と言いつつダーツボードを指さした。


「あれ程の腕前のお客様は、なかなか忘れませんよ。」

「え…3本ともダブルブルに…!?」

キャストが指をさした的に刺さったダーツの矢は綺麗に全て中央の小さな円、ダブルブルに刺さっていた。
そんな芸当、まぐれで出来るような事ではない。
…どうやら彼女の知人を探すよりも、女性について回り彼女が何者なのかを調べた方が良さそうだ。
ありがとうごさいますとキャストに礼を言い三月がそのエリアを立ち去ろうとすると、ピピピ…と言う音と共に手に持つスマホが震えた。

着信元は工藤新一となっている。

「もしもし、工藤?」

『赤崎、今どの辺だ?』

「今、ダーツとかが出来る遊戯ゾーンだけど…どうかした?」

『ちょっとトラブっちまって…医務室に来てくれねぇか?』

「医務室?」


医務室…と言うと、まさか誰かが怪我をした…?
三月は女性に対しての不信感を抱いている手前、子供達に何かあったのではと不安に襲われた。
近場のキャストに事情を説明し、医務室の場所を教えてもらうと三月は一目散に駆け出した。


「まさかあの子まで来てたなんてね…」

パタパタと三月が走り去った後を、その場に居合わせたツバの大きな帽子を被った女性は追うように歩き始めた事を誰も知らない。



医務室へと案内してくれたキャストに話を聞き、大抵の状況は把握出来た。どうやら元太が観覧車の乗り場へと続く登りのエスカレーターから墜落してしまいそうになった所を記憶喪失の彼女がとても人間業とは思えない動きで助けたのだとか。
人間業とは思えない動き…という事に引っかかりながらも三月が医務室へと通されると、丁度専医が阿笠博士へ治療を施している所だった。


「あ、三月お姉さん!」

「大体の事情はスタッフさんに聞いたけど…大丈夫?」

「おう!姉ちゃんのお陰で無事だ!」


三月は元太の言葉に弾かれるように女性を見遣る。
いきなり三月に視線を向けられ、彼女は戸惑いの表情を見せるが、三月が笑って「ありがとう。」と伝えると彼女もまた柔らかく笑った。


「博士も大丈夫みたいですし、観覧車に乗りに行きましょう!」

「え、ええ…でも、やっぱり迷惑じゃないかしら…」

「今更何言ってるんですか!」

「姉ちゃんはオレ達の命の恩人だろ?」


そう言って子供達に手をひかれる女性に対しての不信感は未だに拭えない。
彼女は確かに元太を助けた。
それが記憶喪失故に無意識で行った事なのだとしたら。
ヒヤリと三月の頬に冷や汗が流れた。

「そうだよ、遠慮する必要なんてないよね、博士。」

「ああ、すでにチケットを買ってしまっているしのう。」

「んじゃ、乗りに行くか。」

工藤が持たれていた壁から背を離し、子供達に歩み寄ろうとすると、突然灰原は「待って!」いつもの彼女からは想像出来ないような大声を上げる。

顔を青くし瞳はユラユラと揺れている。ただならない何かを彼女が感じた事を三月は読み取った。

「江戸川君、赤崎さん。ちょっと話が…」

「ああ…」

「うん。」

工藤も灰原の深刻そうな顔に思わず頷く。

「じゃ、じゃあ我々だけでも先に…」

「ダメよ!…待ってて、博士。」

強い口調に気圧されてか、阿笠博士はただ頷くしかなかった。
子供達はそんな博士の隣で「え〜」等と口を尖らせている。
三月は思った。
もしかして、もしかして本当に自分が警戒していた事が杞憂ではなく真実だったとしたら…。
じっと不安そうに俯く灰原を三月は見つめた。









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