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時は5月上旬、所謂ゴールデンウィークと言う大型連休。
人々は友人、恋人、家族と出掛けたり、はたまた家でのんびり過ごしたりと思い思いの時間を過ごしている。
赤崎三月もまた、強引に休暇をもぎ取ったという恋人、降谷零と共に1日を過ごす予定だったのだが。


「…仕事?」

『ああ、すまない、三月。』

「ううん、仕事なら仕方ないし…。」

『近い内に休みは必ず取る、だから我慢してくれ。』

「私は大丈夫だけど…。仕事がんばってね。」


本当は自分と過ごす事よりもどちらかと言うと自身の休息を優先して欲しい。
中々休暇を取ることの難しい降谷を思っては、三月は心の中で溜息を吐いた。


『ああ。……三月。』

「…ん?」

『…何でもない。じゃあ、切る。』


少し慌ただしそうな…いや、どちらかと言うと切羽詰った様なトーンで降谷は三月が返事もしない内に電話を切り上げた。

今、彼は何かを言いかけなかっただろうか。
三月はしばらくの間、自身のスマホを手放せずにいた。


翌朝、三月は阿笠博士の運転する車、ビートルに少年探偵団と共に乗っていた。
首都高を走りながら三月はぼーっと窓の外から見える景色を眺めていた。やはりどうしても昨日の降谷からの連絡が気になるのだ。
仕事だと言われた手前、電話は出来ない。
メールを一応入れては見たが、それに返事はない。
降谷が自分のメールに対して、確認出来れば直ぐに返事を出す性格だと知っていたからだ。
…直ぐに返すことの出来る状況ならばの話だが。
単に仕事が立て込んでいるだけ?それとも何かの事件に巻き込まれて…
そもそも、仕事とは何の仕事だ。
話を聞かずとも三月は昨日の電話を受け、彼の本来の仕事である公安としての活動だと勝手に思いこんでいた。
しかし、そうとも限らないではないか。
ポアロの仕事ならばあんなに焦って見せる事も無い。とすると、探偵としての依頼で…?そうでもないとすれば…

まさか…


「三月お姉さん、さっきから怖い顔して、どうしたの?」

「え?あ、ああ…なんでもないよ。」


はっと引き戻されるように、三月は膝の上に座りながら不思議そうな顔でこちらを見る歩美を見た。
少年探偵団全員と三月がビートルに乗るとなると、どうしても1人を三月が膝に乗せて乗車する必要があった。
歩美に苦笑いを零した三月は隣に座るコナン…工藤新一がイヤホンをつけ、真剣にスマホの画面を見ていることに気づいた。

「熱心に何を見ているのかしら。」

そのまた隣に座る灰原に聞かれた工藤はイヤホンを外すと画面を彼女へと寄せた。
三月もその画面を何気なくのぞき込む。

「昨夜の大規模停電の原因が未だに発表されねぇから、変だなと思ってニュースを…。」

「ああ、首都高で交通事故があったとか。…あ。」

そう言っている内にニュースは次の話題に切り替わった。
次のピックアップコーナーです。そうアナウンサーが言うと画面には本日、三月達が向かっている東都水族館の映像が流れる。

「あー!これから行く水族館の特集やってるよ!」

「え!見せてくださいよコナン君!」


東都水族館、実は三月は今日、降谷と共に訪れる予定だった。
公安警察は闇の取引場所に成りやすいテーマパークの構造を熟知しておかなければならない。
2人は下見と銘打ったデートをする予定だったのだ。

…もちろん理由はそれだけではないが。








『…あ、東都水族館、リニューアルオープンするんだ…。』

『ああ、去年から休業していた水族館か…それがどうかしたのか?』


大体一週間前位だろうか。
ラジオが流れる白いRX-7の車内、三月は聞き覚えのある水族館の名前を拾った。降谷もそれに反応する。


『いや…。』

『…?』

言い渋る三月に降谷が首を傾げていると俯き気味に三月は口を開いた。


『父さんと母さんと…昔に行ったことがあって…リニューアルしたらまた行きたいな…なんて思ってたんだけど。』


思っていたが、三月にはもうその父も母もいない。
家族同然に三月を思ってくれている工藤家と共に行くものアリだと思ったが、工藤夫妻は有名人だから目立つ場所へは行けないし、工藤もコナンのままではまた蘭に怪しまれるに違いない。
ヘタリと助手席の窓に頭を預けた。


『俺とじゃダメか。』

『…え?』

『…だから、その、一緒に行くのは俺じゃダメなのかと聞いているんだ。』


ハンドルを握ったままチラチラとこちらを見る降谷はそう言って三月の目を見た。


『…ダメじゃない。全然、ダメじゃない。』

顔を赤らめてそう返す三月に、降谷は満足そうな笑みを浮かべる。

『決まりだな。』

ポン、と降谷は左手で三月の頭を優しく撫でるとハンドルを握り直した。
三月はそんな降谷を愛おしそうに見詰め続けた。




「…い、赤崎。」


「…おい、赤崎。」


「…え?」

「…ほんとオメー、今日はどうしたんだ?さっきからずっと上の空でよ。」


腕を組みながらジト目でこちらを見る工藤は、既に車の外に降りていた。車内に博士や少年探偵団の姿はない。


「あ、ああ、ごめん工藤。すぐ行く。」

「…何か気になることでもあんのか?」

「いや、何でもない。ほら、はやくみんなの所行こ。」

「あ、ああ。」


小走りで博士達の元へと駆け寄る三月に工藤は少し違和感を覚えた。
昔から夜遅くまでゲームのやりすぎ…等で居眠りする彼女は良く知っているが、今日の彼女はそれとは違う。
何かを考え込むように意識が他の事に集中しているのだ。
現に三月は膝の上に乗せていた歩美が声を掛けても反応を示さず降りても気付かない。
これは推理をしている時の彼女の様子に酷似している、そう工藤は思った。
自分もそうだが、集中力が高いせいか推理中は他人の声がまるで聞こえないのだ。
…だとすると、アイツは、赤崎は何かを隠している?
…いや、自分の考えすぎだろうか。
そう思い返して工藤は三月の後に続いた。















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