高速道路から見える杯戸ショッピングモールには黒煙が立ち込めていた。
正午はまだだと言うのにもう既に爆発が…!?


「由美ちゃん、急いで!」

「オーケー!」


私と由美ちゃんは既に停めてある警部達の車の側で車を止めると観覧車の方へと走り出した。

私達が観覧車へたどり着いた時にはもう既に陣平君を乗せた72番目の観覧車は回り始めていた。


「遅かった…!」

「三月ちゃん!それに由美まで…!!」

「細かい話は後で…!それよりも、はやく陣平君を降ろして下さい!」

「どういう事かね三月君。彼の実力ならば爆弾解体に問題はないはずだろう。」

「違うんです。…私の推理が正しければ、犯人の目的は警察官を殺すことなんです…!誰でもいいから…。」

「ど、どういう事なの!?」



佐藤刑事に思い切り肩を揺さぶられながらも私は陣平君の乗る観覧車を見詰めた。



「犯人は弔いと暗号に示していました。おそらく4年前の爆弾事件の際に車に引かれて死んでしまった仲間の為の、警察への復讐…そんな犯人が、あの観覧車に乗った陣平君を生きて帰すと思いますか!?」

「た、確かに警察官が逃げられない場所に1人…犯人としては絶好の機械だ…!」

「だからはやく、はやく観覧車を…」


止めて!!そう言おうとしたその時、観覧車の整備室が爆発…観覧車は停止してしまった。
なんだ、一体犯人の狙いは…

美和子さんは素早く陣平君へと電話をかける。どうやら無事電話は繋がったようだが、観覧車の中は少し厄介な事になっているようだ。


「水銀レバー?」


「…!観覧車、動かさないで下さい!救助隊もちょっと待って!」

「どういう事だね!」

「水銀レバーって言うのは少しでも揺れたりしてしまうと爆弾のスイッチが入ってしまう…とても危険な装置なんです。だから今あの観覧車を動かしたり揺らしたりしたら…爆発してしまう…!」


美和子さんの言う水銀レバーとは十中八九、その事で間違いないだろう。
なにしろそれは陣平君本人が私に教えてくれた事だからら。


……



ちらっと観覧車の外を見れば小さな身体で走り回る三月を見つけた。
どうやら水銀レバーにあいつは気付いたらしい。

あいつは若いのに頭がよく回る。
爆弾の解体だって教えれば直ぐに覚えた。呑み込みも早かった。

それに素直だし、人の気持ちが良くわかる奴だ。
だから俺が同じ爆弾を解体させ続けても、あいつは何も言わなかった。
…お前が気に入るワケだぜ。

そう思い、ふと生きているかどうかも分からない友人を思い浮かべた。
警察学校の頃、同期の中で飛びぬけて優秀だったアイツは人知れず公安というエリートの集まる部署に配属された。
直接聞いたわけじゃねえがあれ程優秀な奴がどこの部署にも見当たらねえんだ。他に考えられない。

めっきに会うこともなくなった奴は4年前、突然俺にメールを寄越した。
久々のメールなんだからもっと書く事があっただろうに、その内容は至って簡潔。

病院の名前と病室の番号に添えられた『守ってくれ』という短いメッセージ。

最初は馬鹿らしいと思ったが、アイツが俺に頼ってまで守って欲しい奴に興味が沸いた。
アイツと釣り合う様な絶世の美女…はたまた手放すには惜しい優秀な人間…アイツの親族…沢山予想は立てたが、病室を訪れ目にした人物は俺の予想全てから外れたような、ただの小さな子供だった。

どういう事だと問いただしてもアイツからメールの返事はない。
渋々その場を通りかかった同じ警視庁の赤崎警部に事情を聞いた。どうやら子供は警部の実の娘らしい。

何故アイツが自分で守らない!…アイツの立場はわかっていたが、大切ならば自分で守ればいい。
しかし、真実はとても残酷だった。

三月は事故による記憶障害でアイツの事をすっかり忘れてしまっていたらしい。
その間に彼は…そう言って警部は口をつぐんだ。

…言わなくても察しはついた。
公安としての潜入任務だとか、そういう危険な仕事についたのだろう。

…やるしかねえか。
「守ってやるよ」と、そう書いたメールが送信された事を確認すると、俺は病室の扉を開いた。



















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