「ほら、コレやるよ。」

「何?これ。」


あれから暫くして、中学へと上がった私は回数はめっきり減ったものの、部活動のない日は陣平君によく勉強を見てもらったり、話し相手になってもらっていた。


「爆弾。」

「…は?…え?」

「はやくしねえと爆発しちまうぜ?」

「ちょ、ちょっと陣平君…!」

「なんてな、爆発はしねえよ。ただし、作りはよくある爆弾のタイプの一つだ。」


へぇ、と興味深そうにまじまじとそれを見詰める私に陣平君はニヤリと笑った。


「お前、最近よく事件に首突っ込んでるみたいじゃねーか。」

「え?いや、あれは不可抗力と言うか…母さんについて回ってるから当然なんだけどね…。」

「もしもの時のために、いい事教えてやるよ。お前、手先は器用みたいだし。」

「いいこと?」

「それはな…」




カチャカチャ…震える手を抑えながらピンセットで黄色い導火線をつまみ上げる。その逆の手にはニッパーを握っている。私はもたつく動作で線を切っていく。
沢山の線が繋がれた小さな箱のような機械はピッ、ピッと点滅する度に私の焦りを誘う。
小さな液晶パネルにはどんどん減って行く数字が…
10…9…8…7…

刻刻と迫る時間、焦りにより私は切るはずのない線をニッパーで切断。
途端にピーーと機械は大きな音を発する。



「あ…。」

「はい死亡。」


陣平君に爆弾の解体を教わっているのだ。
こんな中学生に何を教えているんだと内心思いつつも溢れる興味を抑えきれない私はその陣平君の提案にこくりと頷いた。

机に座りながら作業している私の後ろには解体に失敗した爆弾の残骸が放り投げられている。
もしこれが本当の爆弾ならば私は100回死んでいるだろう。


「焦りは最大のトラップだ。…何回いや分かんだ。」

「はーい…。」

「じゃあもう一回な…」


回数を重ね、簡単な物なら直ぐに解体出来るようになった頃から、陣平君はやたらと私に同じ爆弾を解体させるようになった。
少し複雑で、しかも水銀レバーという、解体中に少しでも振動してしまえば即爆破してしまう程難しいトラップのついた物だ。
ええ、またこれー、と愚痴を漏らす私に陣平君は黙ってやってりゃいいんだよ、と…そういう時の彼は決まって少し複雑そうな顔をしていた。
爆弾を見つめている時の彼はサングラスをしないから、それは直ぐに分かった事だった。

こっそり母と同期である目暮警部にお願いして爆弾事件の調書を見せてもらったが、やはりあの爆弾は私が小学生の頃に起きた爆弾事件の物と一致していた。
ペラペラと余計に調書を捲ってしまい、その時に亡くなった爆弾処理班の萩原さんという人が陣平君と関わりの深い人物だという事を私はその時初めて知った。

その次の年から毎年その日にFAX…?その年が3で次の年が2…そして去年が1…では、今年は0?
パッと自分の目の前で徐々に減っていっている液晶パネルの制限時間を見つめてふと思い付いた。
こんなのまるで、爆弾のカウントダウンではないか…



「…なあ三月。」

「…ん?」

「手は止めるな。そのままで聞け…。」

カチャカチャと工具を弄る私の後ろでパイプ椅子に腰掛ける陣平君は静かに告げる。


「…部署を移動する事になった。お前の母さんの所だよ。」

「え、そうなの?」

「ああ、だから今よりお前に構ってられなくなる。」

「…私、もうすぐ受験生だよ?いつまでも陣平君に構ってもらうわけにもいかないよね…。」


思えば初めて会った頃から陣平君はよく私の面倒を見てくれた。
ガキは嫌いだとか、かったるいとか色々言ってはいたがこの関係はかれこれ数年は続いている。
何故こんなに私に良くしてくれるのか、彼は未だに話さないが陣平君ももう20代後半に差し掛かる。
いつもいつも私に付き合っていてはいい加減迷惑ではないだろうか。
今の一言にはそういう気持ちも込めて見た。


「そうか。」

「それに、捜査一課に陣平君が行くなら、私も一課に付き纏うから大丈夫。」

「付き纏うってお前…逮捕されんぞ。」

「大丈夫、目暮警部も私の事可愛がってくれてるから!」

「…そうかよ。」


それ以降私の手元にある爆弾解体が終わるまではどちらも黙り込んでいた。
それが何だか気まずくて焦らず、かつ迅速に解体を終えると私は直ぐに陣平君を振り返った。


「…一個だけ聞いてもいい?」

「答えられる事ならな。」

「何でこんなにも私の面倒見てくれるの?」

「そりゃ、お前…」

陣平君は暫く間を空けた後、フッと笑う。彼は嬉しい時によくこの顔をする。
多分その理由に行き着く人物は、陣平君にとってとても大切な人なのだろう。

「頼まれたからだ。」

「誰?母さん?」

「…そいつは教えられねぇな。」


笑って答える陣平君をみて、私はその人に合ってみたいとも思った。










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