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「三月…さん…。」


「でも、なんか運命だよね。」


零君はじっとこちらを見つめている。
ゴクリと彼が息を呑むのがわかった。


「だって、2度も同じ人を好きになったんだから。」


彼はあの時の告白をただの子供の言うことだと気にも止めていなかったのかもしれない。
でも、今ならわかる。私はあの時から本気で零君の事が好きだったんだ。



「……僕は。」

それから暫くして零君は口を開いた。


「…就職したての頃、良く上司の娘さんとよくこの公園で遊んでいました。彼女は素直ないい子で…僕が自分の事を何も話はしなくとも怒りもしない優しい女の子でした。」


私と零君の間を風が吹き抜ける。
該当で照らされている私とは違い、暗闇の中にいる彼の表情は時々公園前を通り過ぎる車のヘッドライトでしかわからない。


「歳は10以上も離れています。仕事はキツかったですが、その子と遊ぶのが何よりの楽しみでした。彼女と会うと僕の疲れが全て吹き飛んでしまうんです。好きでした…妹として。」


そんな零君の言葉に今度は私が息を呑んだ。
妹として…か、仕方ない何しろあの時私は小学生、彼は社会人だったのだから。


「でも、彼女に突然逆プロポーズされてしまいまして…最初は子供の可愛い冗談だと思っていたのですが、その子からしてみれば本気で言っていることだと気づいて…それからですかね。少し見る目が変わりました。」

ザッザッ…と彼がこちらへ一歩ずつ近付いてくるのがわかって私はブランコから立ち上がった。
私達は真正面から向き合う。


「可笑しいんです。あれから6年も経ちました…でも、ずっとあの時の告白が忘れられなくて…その頃から彼女と会うことはありませんでしたが気持ちは大きくなるばかり。…だいの大人が変でしょう?」


「変じゃない…。変じゃないよ…!私が保証する!!」


目頭が熱くなり、次第にじわじわと涙が溢れ出す…。
嬉しかった。相手になんてされてないと思っていたから。

「ありがとう。」


「うん。」


「ありがとう…俺を思い出してくれて。好きだ。…三月が好き。」


「零君…。」



流れた涙を零君が指で拭う。もうその頬に涙が伝う事は無い。
どちらともなく歩み寄って、二つの影は重なり合う。
背中に回された彼の腕を感じながら離れないように私も彼の背に腕を回した。



「…ありがとう、ずっと覚えていてくれて… 。私も大好き。」


「伊豆でお前が入院したと聞いて焦った。御見舞に行けば打撲じゃないと気づいてもっと焦った。」

「ごめん、私嘘ついたよね。」

「いい。俺も問い詰めて悪かった。でも、何かあれば頼って欲しい…俺だけを。」

うん、うん…何度も口に出して頷くと抱き寄せる力はもっと強くなる。
好きだ…この人が大好きだ。たった1人で組織に潜入して戦っている零君、自分の事は話したがらなかった彼は、今ならば私に話してくれるだろうか。
隣で支えてもいいのだろうか。


「好き…」


溢れ出る想いを言葉にして伝えたくて、もう1度口にする。
夢ではない。大好きな人の胸に包まれている幸せを今はしっかりと味わいたい。
そう思っていたのに両肩を掴まれて零君にやんわりと遠ざけられる。
それを不安だと感じる暇もなく離れた零君はもう1度私に顔を寄せる。あっという間、唇が重なり合うその距離はゼロ。
ちゅ…と軽い音をたて零君は顔を離し戸惑う私に優しく微笑みかけた。



「俺は愛してるけどな。」








私の暗殺命令が下った時、零君は自分が引き受けるとベルモットに頼み込んだらしい。
バーボンはターゲットに近づいて暗殺を試みるも殺意が恋に変わってしまい暗殺は失敗に終わる…なんて有りきたりな設定なんだ…と思ったが逆に有りきたり過ぎてかベルモットは信じ込んでしまっていた様だし、今は私からも気が逸れているようだと零君は話た。


「そりゃ、殺さないって直接言われたから。」

「ベルモットにか…!?」

「あー、うん。まだ…って。」

工藤や哀ちゃんに手を出さないばかりか幼児化についても組織に黙っているところを見ると、どうやらこの件に工藤が絡んでいるのは当たりかもしれない。

零君も頭を抱えて悩んでいるが思い当たらないのも無理もない。
工藤との約束だから零君でも絶対に幼児化については言えないが、赤井さんは既に気付いている。零君が気付くのも時間の問題かもしれない。

「…で、なんで赤井と一緒に行動していたか説明して貰おうか?」

「え?だって、その…成り行きで…?」

「三月と赤井が知り合いだった事は気に食わないが、どうせコナン君から指示を受けたんだろう。彼とはヤケに仲がいいみたいだから。」

腕を組んでぶすっとした表情で零君はこちらを見てくる。
カッコよくない、最高にカッコよくない顔だ。


「零君、嫉妬してる?コナン君小学生だけど?」

「…小学生に嫉妬して悪かったな。」


そう言うと零君は先程とは打って変わって顔を真っ赤に染め上げ視線を何処かへと泳がせている。
仕事が絡むといつでもポーカーフェイスな彼が妙に照れたり焦ったりしている姿が可愛くてつい笑ってしまうと照れたままの零君は「笑うな」と呟いてもう1度笑い声が溢れ出る私の口を零君の口で塞いだ。








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