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「じゃ、じゃあ私は売店によってから病室に戻りますね。」

少し気まずい空気を紛らわせるために、私は口を開いた。
高木刑事の顔を見て、もうこの話題には触れない方がいいと思ったからだ。

「三月、お大事にね。明日退院だったよね?」

「ご連絡いただけたら僕、迎えに行きますよ。」

そう言う安室さんの顔を見ながら工藤は何だか浮かない顔…いや、少し焦ったような顔をしている。
明日に何かあると言うのだろうか。


「いえ、まだ確定と言うわけではありませんので…。」

「そうでしたか…でも、何かあったら連絡してくださいね?」

「はい。…と、コナン君ちょっと。」

「なあに?三月姉ちゃん。」


何か意味あり気な顔をしている工藤を引っ張り少し皆から離れた場所に行くと、安室さんの場所を気にしつつも屈んで工藤に話し掛ける。


「…で、その顔、どうかした?」

「…バーボンが楠田について探ってきたと言う事は…赤井さんの事を…」

「でも彼もまた同じ立場かもしれない。」

「…お前!」

「でしょ?」

「ああ、ただ赤井さんから聞いた話通りなら、バーボンは赤井さんを捕らえて組織に突き出し、もっと信用を得ようとしている…」

工藤の言葉に私はゆっくりと頷く。

「だから、バーボンが楠田について工藤に探りを入れてきた時点でそろそろ動きがあるのかもしれない。…だから工藤。」

追跡メガネの発信機を工藤の上着のボタンに1つ付ける。

「今後の状況が知りたい。集音器で聞いておくから外さないで。」

「ああ、わかった…てかお前、バーボンの事最初から…?」

「気付いたのは…最近かな。私の父さんもコレだったから。」

そう言うと私は工藤の手を取り、その小さな掌に指文字で『0』となぞった。

「もっとも、それも確信を得たのは最近…詳しい情報交換は無線でね。追跡メガネと無線機は持ち込んでいるし、私の病室は万が一を考えて電子機器を使えるよう、手配して貰ってるから。」

「わかった。取り敢えず明日退院なら昴さんにでも…」

「いい、退院なら安室さんに連絡してって言われたからさ。」

「お前…。」

「じゃ、そういう事で。くれぐれも気を付けて。」


またねコナン君、と蘭達にも聞こえる大きさで、手を振りながら工藤を見送った。
くるりと踵を返すと集音機のイヤホンを耳にハメ、私は病室へと戻っていった。



『…しかし、見舞い客を毒殺とはな…』

『正直呪われてますよこの病院…前にも色々あったみたいだし…』

『色々?』

高木刑事の一言に対して安室さんは突っ込む。
まずい…高木刑事は楠田の件も、赤井さんの焼けた死体とシボレーの件も関わっている…
口を滑らせかねない…

『アナウンサーの水無怜奈が入院してたって噂になったり…ケガ人が押寄せてパニックになったり…爆弾騒ぎもあったとか…』

『た、高木刑事…もう警視庁に帰んなきゃいけないんじゃない?』

『やば!こんな所で油売ってる場合じゃなかった…』

『じゃあ楠田陸道って男の事とか知りませんよね?』

『楠田陸道?』


やはり探りに来たか…そしてきっと高木刑事の事だから…

『ああ!そういえはその爆弾騒ぎの何日か前にこの近くで破損車両が見つかって…その車の持ち主が楠田陸道って男でしたよー』


やっぱり…

『この病院の患者だったそうですけど…急に姿をくらましたらしくて…謎の多い事件でね…その破損車両の車内に大量の血が飛び散っていて…1ミリに満たない血痕もあって…』


そう、その車両は楠田陸道が拳銃自殺し、その死体を秘密裏に回収した車両…
1ミリにも満たない飛沫血痕…安室さんなら、バーボンならば拳銃と気付いてもおかしくない。
そろそろリーチかもしれない。
さあ、どうする、工藤。



ピピピ…ピピピ…


「…はい、赤崎です。」

『三月さん、僕です、安室です。』

電話の相手は安室さんだった。
分かれた後だというのに…どうしたのだろう。

「安室さん?どうしたんですか?」

『いえ、そう言えば僕、三月さんには聞いていないと思っていて…』


…やはり先程工藤を引き止めた事が気にかかったと言うところだろうか。


『楠田陸道を知っているのかを…』

「…。」

『どうなんです?』


嘘をついても彼には見破られてしまうだろう。
ならば…


「…名前を聞いた限りでは知り合いでない事は確かだと思いますよ。そんなに知りたいなら担当医に聞いてみますけど…。」

『いえ、それがわかれば大丈夫です…では、お大事に…。』


少し含みのある言い方をした彼に私は少しの不安を感じた。
零君…一体何を企んでいるの…。

私は病室で工藤の連絡を待った。












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