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音楽のかかっていない静かな車内…工藤の上着で傷口を押さえながら私は後ろから運転している安室さんへと目を向けた。


「安室さん…来てくれたんですね。」

「ああ、あの暗号を手掛かりにね。それにしても見事な暗号だったよ…あれは三月さんが?それとも…コナン君?」

ミラー越しに、少し彼の口が釣り上がったのが分かった。
…いけない。いくら安室さんが公安警察だとしても、工藤の正体を知られるわけには行かない…でも、わざわざ工藤の名前を出して聞いてくると言うことは、江戸川コナンという存在に目を付けている…という事。

そういえば工藤は伊豆で安室さんに眠りの小五郎のトリックがバレたかもしれないと言っていた。
逆に安室さんが工藤の事を頭の切れる少年、と考えているのならば、工藤はFBIの時同様、動きやすくなるのかもしれない。


「ええ、コナン君ですよ。…全く、彼には驚かされてばかりで…」

「そうでしたか…実は僕もですよ。…それより三月さん。また無茶をしましたね?何度怪我をすれば分かるんです?」

「い、いやでも、子供達が危険でしたし…」

「携帯に何度電話しても出ないし…まったく、心配させないでください。」

「…え?」

「いつも、何かに巻き込まれたのではないかと、気が気ではありませんよ…。」


この光景…今の安室さんの言葉…何処かで…


「ねえ、安室さん…」

「何ですか?もうすぐ杯戸中央病院ですよ?」

「…何でもないです。」


私、昔あなたに、同じ事言われませんでしたか…?




『…という訳で、オメーはまた入院生活に逆戻りってわけか。』

「ほんの数日だから大丈夫だって。子供達にはうまく誤魔化しといて。」

『分かったが…もうあんな真似するんじゃねぇぞ。』

「駄目だよ。」

『はあ?』

「子供を守るのは大人の義務だから。」

『俺は子供じゃねーし。』

「江戸川コナンは子供、だよね?」

『オメーには適わねえな…』


それはこっちのセリフだよ、工藤…。
推理で私は工藤の足元にも及ばないのなら…せめてあなたを守る盾に…。


後ろの方で安室さんの私を呼ぶ声が聞こえる。
安室さんは未成年である私の代わりに入院手続きをしてくれた。


「…じゃ、またね。…お見舞いには来なくていいからさ。」

『何でだよ…ああ、それと、安室さんに伝えといてくれ…』


「…了解。」



「誰かと電話を?」

「はい、子供達と。無事犯人は警察に引き渡されたそうです。」

「そうですか、それは良かった。」

「それと安室さん。助けに来てくれてありがとうございます。子供達からそう伝えてって。」

「あれくらい、何でもありませんよ。…では、すみませんがこれから用事があるので…出来れば着いていたいですが…。」

「私は大丈夫です。本当にありがとうございました。」

「いいえ、三月さんが無事で何よりですから。」


じゃ、また…そう言って少し足早にこの場を去ろうとする安室さんを見ていると、何処か少し嫌な感じがした。たちまち不安になってしまい、思わず呼び止めてしまった。

「あ、安室さん…」

「どうしたんです?」

「…私が言えたことではないですけど…安室さんも、無茶はしないで…。」

先程から感じる、この胸騒ぎは何だ?
近寄ってそう伝えると安室さんはフッ…と笑って私を軽く抱き寄せる。


「大丈夫だ。心配するな。」


その後すぐ私を離すと、安室さんは病院を出ていった。
不安な気持ちが少しだけ和らいだ気がした。




「赤崎さん、包帯を巻き直しますので、一度病室へ…」

「あ、すみません、看護師さん。今戻ります。」

「…それにしても、今の方、赤崎さんの恋人ですか?あんなイケメンな彼氏…羨ましいです!」

「え?ああ、彼はただの知り合いですよ。それに、私が一方的に好きなだけなので…。」

「…私にはそうは見えませんでしたが…。」

「年下の私なんて、相手にしてくれませんよ…では、また病室で…。」

「はい。すぐに先生と伺いますね。」

話し掛けてきた看護師と別れると私は病室へ向かった。
今、安室さんに抱き寄せられていた場面を見られていたとなると…私は恥ずかしくて少し顔を赤く染める。

病室に戻り暫く看護師さんと先生を待つも一向に訪れる事は無い。
…おかしい。看護師さんはすぐに行くって……!!
待てよ…?今の看護師さん、前入院した時にはいなかった筈…!


「どうされました?」

「あの、私さっき看護師さんに包帯を変えるから病室で待っててと言われたんですが…先生も看護師さんも来なくて…」

「…?おかしいですね、赤崎さんの次の包帯交換は明日ですよ?」

「…!!」


…やはり、さっきの看護師は…
私と安室さんの関係を怪しんで聞き出そうとしたのか…?


殺さないと言ってた割に、ちゃっかり私の事調べてるんじゃないか。





…ねえ?ベルモット。









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