「三月さん、サッカー凄く上手ですね〜!」
「工藤にきっちり仕込まれてるからね…。」
そう言ってチラリと工藤を見るも彼は息一つ乱さずニヤリと笑っている。
まったく、子供相手に大人気ない高校生だ…
どうやらサッカーに置いて彼は他人に勝ちを譲る気はないらしい。
私も工藤に本気を出されると到底かなわない。
工藤をやっとの思いでかわして哀ちゃんにパスを出す。
「行くわよ!比護さんお得意の無回転…!?」
哀ちゃんの振り上げた脚はボールに当たることなくそのまま空を切り尻餅をついてしまう。
「哀ちゃん!大丈夫…?」
「ええ、この子がボールのそばに飛び出して来たから蹴れなかったのよ…」
そう言う哀ちゃんの側には1匹の猫がいた。
「かわいー!」
「猫ですか…」
「大尉じゃねーか!」
「お前、その猫知ってんのか?」
「ああ、毛利探偵事務所がある5丁目辺りを根城にしている野良猫だよ。」
工藤曰く、ポアロの梓さんに懐いていて夕方いつも餌をねだりに姿を現すらしい。
大尉という猫は何かに勘づいたのかそのまま空き地から飛び出してしまう。
車に引かれたら大変…と私達も道路へと出た。
「あ!いたよ!車の後ろ!」
歩美ちゃんが指をさしたのは宅配業者のトラック。大尉はそのままトラックの荷台へと入り込んでしまった。
「コンテナの中の魚の臭とかを嗅ぎつけたんでしょうか?」
「とにかく早く連れ出さないと…」
運転手はいない。宅配中だろうか。荷台に子供達が入って大尉を探すが、荷物が多すぎて見つからないらしい。
「三月さん、大ちゃん見つからないよ〜」
「私も入って探すよ…」
「う〜寒い…」
「クール便だからね。私が連れて降りるから皆は外に…」
その時、ニャーと荷物の物陰から声がした。
「いたわ!」
「大ちゃん!」
「…ったく、扉開けっ放しじゃねぇか!」
「あ、悪い…」
「え?」
バン!私達が声を掛ける暇もなく、トラックの扉が業者によって閉められてしまった。
大きな声で呼び止めるも向こうは気付かないらしい。
車はそのまま走り出してしまった。
「やべぇんじゃねーか!?」
「歩美達も凍っちゃうの?」
「大丈夫だよ、本日指定の未配達の荷物がまだこんなにあるから…次に今の業者の人が扉を開けたら出してもらおうぜ?」
その後暫く走り続ける車に揺られていると突然、隣に座っていた哀ちゃんに服の袖を引かれた。
哀ちゃん…?
ちらっと真横を見ると…先程まで着ていたはずのセーターを何故か脱いでいる哀ちゃんの姿が…こんなに寒いと言うのに、何故…?
「ほつれた糸が外に引っかかっちゃって…」
「そのままじゃ寒い、私の上着貸してあげるから…」
「それじゃあ貴方が寒いわよ。」
「平気だよ。それとも、そのまま外に出る?」
哀ちゃんに上着を手渡し着るように勧めると、彼女は大人しく上着を受け取る。
う…思ったより寒いかも…。
そうこうしているうちに出るタイミングを完全に見失ってしまい、扉は再び閉められてしまった。
「次に業者の人が扉を開けたら…外に出してもらいましょう!」
「おう!」
「いや…そいつは止めといた方がいい…」
「どういう事?コナン君…。」
「どうやら俺達の前にもうお客さんが乗っていたようだぜ…」
工藤がライトをパッと照らした先、少し大きめのダンボールの中には…
「し…死体!?」
死体が入っていた。
「ど、どういう事?」
「さあな、この人がどこの誰で…何で殺されたかはわからねーけど…殺したのはおそらく、さっきの宅配業者の2人だろう。」
「ま、まじかよ!?」
「でも、どうしてこんなコンテナの中に…」
「クール便だし、冷蔵設備がついてるからだよ。」
「ああ…三月さんの言う通り。この中に入れておけば死体の腐敗速度が落ちて死亡推定時刻が遅くなり…後でどこかに死体を放置して発見されたとしても… 犯行時刻に2人はせっせと仕事をやってたってことになる。」
それに見ろよ!この死体が入れてあるダンボール箱…角が潰れて側面も汚れてるだろ?
工藤がダンボールをライトで照らし私たちに見せる。
犯人は死体を箱ごと転がして死斑が出にくくしていたと言う所になる…
…って、そんな事よりも、こんな死体の入ったトラックに乗り合わせてしまった私達は…!
「ああ、6人とも殺されちまうだろーぜ…この中に閉じ込められてな…」
動いて犯人に見つかった時にどうしようにも、もう既に手はかじかんでしまって満足に動かすことは出来ないし、退院したてでまだ銃創が十分に癒えていない私の身体は徐々に痛み始めてきた…
スマホも博士の家に置いてきてしまったし…
これはいよいよ不味いんじゃないか…?
どうする工藤…そう思い、彼の顔を見る。
工藤…笑ってる…。
「あの2人をオレ達が宅配してやろーじゃねーか。監獄にな…」
工藤…この状況で、何か手があるって言うのか?
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