「おお!確にその日は三月君がそう騒いでおったな!大人達は皆微笑ましげに見とったぞ。」
「あら、好きな人の話で盛り上がるなんて、赤崎さんも可愛いとこあるじゃない。」
「こいつ、昔は人見知りな癖に懐くと騒いで五月蝿かったからなー。」
「ちょっと工藤?…でもなんで、私忘れてるんだろう…。」
疑問を口に出した途端、少し不安な気持ちが大きくなる。
工藤も覚えているような事を、何故私は忘れてるんだろう。
あの写真も、その時好きだった人も、何か大切な事を私はきっと忘れている…
ふと博士を見ると少し気まずそうにこちらを見ていた。
目が合ったので「博士、どうかした?」そう問い詰めると、博士は控えめに口を開いた。
「実は、あの年三月君は事故に合っての…記憶の一部が飛んでしまったんじゃ。」
「え!?」
「それ、ホントかよ!?」
それは、工藤も知らなかった事らしい。
ああ、少し高い所から転落して頭をぶつけてしまったみたいでな…と博士は続けた。
「大切な事は覚えているし、特に日常生活に支障もないからそのうち戻るだろうと放っておいたみたいじゃが…まだ思い出していないとは…」
「そんな事が…父さんも母さんも私には何も言ってくれなかったのに…」
阿笠博士が言うには、その時は記憶が混同し過ぎてそれ所ではなかったらしい。
しっかし、オメーはよく事故るな、と言う工藤の頭をバシッと叩くと私は頭を抱える。
「ねえ工藤、私その時その、好きな人の名前とか言ってなかった?」
「どうだったかな…言ってたような…なかったような…」
流石にそんな昔に口に出した名前など覚えてなくて当然か…
名前…
忘れる…
もしかして、父が追伸に書いてあった、思い出せ…と言うのは…その人の事だろうか。
「何だよ、その人が気になんのか?」
「うん…多分、重要な事を私、忘れてる。」
「その年に何かあったって言うのか…? 」
「…でも、その手の記憶障害は何かの弾みで簡単に思い出すって聞いたことがあるわ。」
「哀ちゃん、それ本当?」
「ええ。絶対とは言えないけれど…」
そうこう話しているうちにピンポーン、と博士の家のインターホンが鳴る。
訪れたのは歩美、元太、光彦の3人。どうやら今日は博士の家に集まってケーキを食べるらしい。
「三月君も一緒にどうじゃ?」
「そうだよ、オメーも食ってけ。」
「…そうだね。そうする。」
わーい!三月お姉さんも一緒だー!
とはしゃぎ始める子供達を微笑ましく見つつたまには息抜きもいいだろう。なんて考えた。
「…っても、ケーキが届くまで後2時間もあるのか…。」
「じゃあ、何処かで遊びましょうよ!」
「さんせー!」
「じゃあ近くの空き地でサッカーしようぜ!」
そうと決まれば歩美ちゃん達は外へかけていく。
ほら、行くぞ赤崎、とボールを持った工藤が私に話しかける姿がいつかの姿にダブって見えた。
「…赤崎?」
「…そういえば、あの日も料理が出来るまで工藤と空き地にサッカーしに行ってたよね……あ」
「赤崎…!お前、写真のあの日の事思い出したのか…!?」
「…そうみたい!!」
それから、そのシーンを思い出すと同時に、じわじわとあの日の記憶が蘇ってきた。
工藤に記憶の内容を伝えると、合ってる…と返ってきた。
どうやら本当にその日の記憶をこんな小さな事で思い出したらしい。
「…でも。」
「でも、何だ?」
「…好きな人が思い出せない。」
「…ま、焦る事はねーだろ。今みたいにきっと思い出すって。」
そうだといいんだけど…と、私は走って空き地へと向かう工藤の後を追った。
空き地に着くと子供達はチーム分けしましょう!と私の手を引いて真ん中の方へと集まった。
「三月お姉さんは、サッカーできるの?」
「私?うん、小さい時はよく工藤と一緒にサッカーして遊んでたから…」
「工藤…って、新一お兄さんですか?蘭さんの恋人の!」
そう光彦君が言うと、ずっこける工藤を見て少しニヤリと笑ってみせると睨まれ返されてしまった。
もう、工藤も蘭も両想いなんだから…とそこまで考えてハタリと思考がとまる。
じゃあ、恐らく両想いであろう、私と安室さんは…それに、写真の安室さんに似た人物も気になるし…。でも、どこからどう見てもあれは安室さんにしか…。
「三月さん!チーム分け決まりましたよ!」
「え?ああ…うん。」
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