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三月へ

この手紙をお前が読んでいる頃には、もう俺は…と言うのは少しベタだろうか。
この手紙は俺が死亡して娘が遺品を受け取りに来た際に渡してくれと頼んである。

本題だが、まあ警察庁に訪れたお前の事だから察しがついていると思うが、俺が所属しているのは公安警察…ゼロ、と言えば分かるか?
小さい頃から隠していてすまなかったな。
お前の母にも結婚するまでは黙っていたんだぞ。

主な任務は諜報員と連絡を取り、指示を出す事だ。
そのせいである組織に目をつけられ、母さんもお前までも危険な目に合わせてしまい、本当に済まないと思っている。
どうせその組織について調べて追っているんだろう…
自分の娘の事なんて手に取るようにわかるさ。
なに、止めはしないさ。お前は俺によく似て詮索好きだからな。


この手紙に書けることはこの位だ。後は自分なりに追い求めるんだ。その方が燃えるだろ?

唯一の未練は、愛する我が子の花嫁姿が見れない事くらいだな。
未来の旦那ときちんと墓参りするように。
じゃあ、元気で。

父より


父さんらしい手紙だと思った。
手紙の文字を読むとまだ父が近くにいるような気がして、よく実感が沸かない。
いつ書いたのかは知らないが、どうしてここまで私の行動が読めるのだろうか。

そう、そして私の予想は当たっていた。父の所属は警察庁警備企画課…公安警察。
ゼロと言うのは存在しない組織であれと名付けられたその俗称…
安室さんは公安から組織にスパイとして送り込まれたと見てほぼ間違いないだろう。

はあ…とため息を吐きそのままベッドへと沈む。
手紙を汚さないように、封筒に戻そうと封筒を開くと、まだ中にはもう1枚の便箋と写真が2枚入っていることに気付いて、思わず中身を取り出す。
先に目を通したのは、便箋だ。



追伸
写真は大切に保管する事。俺の大切な写真なんだから。
名前は自分で思い出す事。


写真は1枚目が工藤家と一緒に写った写真だ。
見た限りでは小学校高学年、と言ったところだろうか。
写真には一緒に今の江戸川コナンよりも幾分成長した工藤新一の姿があった。

…しかし、二つの家族が全員揃うことなんて滅多に無かったので、この日の事は覚えていてもいい筈なのだが、この写真がいつ撮られたものなのか全く記憶に残っていない。
おかしい…そう思いながら2枚目の写真を捲ると、余りの衝撃に私は思考が止まった。

「…え?」


2枚目の写真には1枚目の写真とほぼ同時期であろう私と…今より大分若い安室さんそっくりな人物の姿があった。


写真の向こうでは2人とも肩を寄せあってカメラへと微笑みかけていた。






『…昔のアルバムぅ?』

「うん、小学5か4年位の…私も写ってるのない?」

『多分あったと思うけど…それ、何に使うんだ?』

「ちょっと確認したい事があって…工藤の家行ってもいい?」

『別にいいが…あの量を探すのか?』


工藤にそう言われて、あの工藤家の膨大な本の量を思い出す。
有希子さんの事だから確りラベル分けはしてあるのだろうけど、到底あの量から一人で探すのは不可能に近い。


「手伝って…ください。」

『今日は元太達が博士の家に来るんだから、手短にな。』



工藤の家に着くと赤井さんもとい…沖矢昴さんの姿もあった。
書斎から何冊かアルバムを持ってきてくれた工藤に工藤家と赤崎家が一緒に写った写真を見せると、「ああ、あんときか…」と呟いてアルバムのページを捲り始める。
どうやら工藤はピンと来たようだ。


「あれだろ?丁度親父が締切終わらせて、んでお前の親父も珍しくオフで俺の家に集まった日だ。写真撮ったのは阿笠博士だしな。」

「…全然覚えてないんだけど…。」

「ええと確かこの変に…っと、あったあった。」

工藤が差し出したアルバムのページには私のものと同じ写真が入っていた。
その他にも、同じ日に撮ったであろう写真が何枚か入っているが、不思議な事に本当にどれも見覚えのないものだった。


「…思い出せない。」

「なーに言ってんだよ。あの日は確か、お前“どうしよう新一!好きな人が出来ちゃったあ!”って五月蝿かったよな。」

「好きな人?」

「ああ、でもスゲー年上で確か…お前の親父の知り合い?って言ってたと思うぜ?」


工藤のその言葉の脳裏に、私は2枚目の写真がチラついた。
まさか…ね。


「ええ、全然覚えてないんだけど…。」

「そんな筈ねぇんだけどな…何なら、博士に聞いてみっか?」

「うん…。」










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