31





「ありがとうございました。」

退院です、と私に告げた先生にお礼を言うと、少し不安な顔をされる。
それもそうだ。警察に提出する診断書等も全て全身打撲…等と偽っているのだから予定よりも随分早い退院となる。

不安そうにこちらを見る医者や看護師さん達に、大丈夫です。と笑顔を見せると彼等もまた笑顔で見送ってくれる。


病院を抜けて久々に外へと出た。
これからどうしよう。真っ直ぐバスに乗ってマンションに帰ってもいいだろうし、買い物をするのもありかも知れない。
そう思って辺りをキョロキョロ見回していると、ふと、視界の端に昨日病室の前にいた男を見つけた。

彼はそのまま私に気付かず病院へ入っていく。暫く外で様子を伺っていると、彼はほんの数分で病院から出てきた。
おそらく、私が退院した事を確認したのだろう。
…しかし、何故今日も病院へ?
そう言えば今日安室さんは探偵の仕事で来られないと言っていたので、それを見計らって来たのだろうか。
鉢合わせたら不味い安室さんと鉢合わないために…


しかしこの好機を逃すわけにもいかない。
彼が本当に父の仕事仲間だという確信が欲しい。
ジョディさんに病院へ運んでもらうようにお願いしていた自分の単車にキーを差し込むと、私はその男にバレないようにその後ろに付いた。


大通りを直進して、そのすぐ角を曲がって…
ああ、間違いない。私の予想は間違っていなかった。

暫く追尾して到着したのは母の勤めていた警視庁。しかし、彼の乗る車は警察庁の駐車場へと消えていった。
一般の駐輪場に単車を停めると私はその男へと近付いた。


「すみません。…以前父の葬儀にいらしていた、父の仕事仲間の方ですよね?」

「…ええ、そうですが。娘のあなたがなぜここに?」


一瞬目を見開いたもののその後は動揺せず毅然とした態度で男は私に返す。


「実は、父の遺品を引き取りたくて…それで今警視庁から母の遺品を引き取った帰りに見知った方を見かけたもので、つい…。」


男はそうでしたか…と呟くと暫く考え込むように黙る。
沈黙の最中、冷や汗が走る。
決して探っている事を悟られてはいけない。
母の遺品は当の昔に引き取ってあるが、どうしても、父の所属部署が分からなかったため、引き取ることが出来なかったと言うことも事実。

どうしても、どうしても確信が欲しい。


「すみませんが、現在捜査がごたついていまして…また後日という事でもよろしいですか?」

「…わかりました。では、いつ頃お伺いしましょう。」


そう言われて仕舞えば、切り返すことは出来ない。
変に食いついて怪しまれたら本末転倒。

「…では、3日後のこの時間に。…ご都合は?」

「大丈夫です。ありがとうございます…えっと…。」

「私は小林と申します。」

「ありがとうございます、小林さん。」


ポロッと所属を零さないか…と思ったが、流石にガードが堅いか…恐らく名前は本名と見て間違いないだろう。
では、急いでいるので、と小林さんはそのまま警察庁の中へと消えていった。


取り敢えず、一度マンションへ帰って…
そう考えているとポケットが小さく震える。
スマホをマナーモードにしている事をすっかり忘れていた。取り出して画面を確認する。電話だった。


「はい、赤崎です。」

「沖矢です。こんにちは。退院したらしいですね。」

「こんにちは。どうかされましたか?」

「いえ、今コナン君、蘭さんと園子さんから退院した事を聞いたもので…。」


ああ、なるほど。蘭達が家にいるのか。電話の後ろからわいわいと賑やかな声が聞こえてくる。


「そうですか…それで、何の話でしょうか。」

「ああ、この間、三月さんからお借りしたゲームですが、今朝丁度クリアしたのでお返ししようかと思って…」

「…ああ、あのゲームソフトですね、わかりました。今から伺います。」

「お待ちしてます。」


流石赤井さん…仕事が早い。ゲーム、とはこの間の事件で黒ずくめの仲間の男が盗んだゲーム。赤井さんにはそのゲームソフトの売り元についてを調べてもらっていた。
クリア…と言うのはベタだがまあ要するに赤井さんが咄嗟に私に分かるように考えた隠語、蘭達は赤井さんてゲームするんですね…程度にしか思わないし、もし万が一安室さんに私と沖矢さんがあっていた事がバレても蘭達にそう証言してもらえれば済む話だ。






「…蘭達は帰りましたか?」

「たった今帰ったところだよ。」

「それで、赤井さん例の話は…」

「その前に、お前の病室の外に来ていたらしい男について教えてもらおうかな。」

「…誰からそれを。」

「あのボウヤが、お前がそんな奴を放っておく筈がない…とな。何か掴んだんだろう?」

「いいえ、まだ断言できる証拠がないのでなんとも。今週中にはケリがつくかと。」


赤井さんは沖矢昴さんの姿のまま目を開くとそうか…と笑った。
ああもう、この人は何処まで私の行動が読めているのか…
むしろ、赤井さんと言うよりも工藤か。







prev next

back
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -