それから安室さんはなるべく毎日来る…と誰よりも病室へ通ってくれた。
でも私はこの間の件が響いているようで彼と会うと緊張しっ放しだ。
赤井さんは面白がってるし工藤は相変わらず安室さんを警戒している。
怪我の経過も順調だ。傷口も塞がり、痛みもほぼなくなった。
表では打撲と銘打っているので私ははやく退院させてもらう必要があったのだ。
もちろん、あの発砲の件や私の怪我の件はすべてFBIが面倒を見てくれているため、警察は知らない。
工藤と見舞いに来てくれた蘭に今週には退院できる旨を伝えると、2人とも安心したような顔をした。
「そうだ、三月。退院したら遊びに行かない?」
「行きたいけど…どこに?」
「今度ね、大阪から友達が遊びに来るんだけど、良かったら三月も来なよ!」
「え!いいの?私もついて行って…。」
「全然大丈夫!友達もすごくいい子だからさ!」
頷くと蘭は約束だよ、と笑う。
そう言えば転校してからというもの、色々なことがあり過ぎてまともに遊べてないなあ…とか思いつつ、蘭との約束が今後の楽しみの一つとなった。
私ちょっとトイレに行ってくるね。と、蘭が病室から出ていくと工藤が小声で私に話しかける。
「おい、赤崎。」
「どうしたの工藤。」
「さっきから病室の外からこの部屋を見てる男、お前の知り合いか?」
「え…?」
工藤は少しスライドドアを開き、私の手鏡を使い反射を利用して私に病室の外で立っているスーツの男を見せてくれた。
年齢は大体30代前半と言ったところだろうか。
大丈夫、と工藤に告げベッドへ戻ると私は首を捻って考える。
「…あの人、何処かで見たことあるような…。」
「…もしかして、奴らの仲間か…!?バーボンの通っている先が気になるから調べてるとか…」
「いや、多分奴らの仲間じゃないと思う…どこだったか…うーん…」
考えても何も思い付かない、と言うと一応警戒しておくように工藤から返ってくる。
工藤が心配性なのは今に始まったことではないが、やはり黒の組織絡みとなると人一倍敏感になるそうで、バーボンと何があったかとか、根掘り葉掘り聞かれそうになったが、なんとか誤魔化しておいた。
「じゃあコナン君、そろそろ帰ろうか。」
「はーい、三月姉ちゃん、またねー!」
「はーい、バイバイコナン君。」
「お大事にね。」
本当に工藤が小学校しているのが未だに違和感だ。
あれくらいの年の頃はよく工藤の家に遊びに行って一緒にサッカーしてたな…そう言えば工藤はゲームヘタクソだったっけ…何回やっても私に勝てなくて、拗ねる工藤を宥めて、丁度機嫌が戻った頃に仕事終わりの父さんが迎えにーーーー
…あ、思い出した
そう、父さんだ。あの人、父さんと母さんの葬式に来てた、父さんの仕事仲間って言ってた人だ…!
何で気付かなかったんだ…と頭を抱える。
彼が何故病室に入って来られないか。その理由は複数考えられる。
私が覚えていないと思っているから見舞いをした所で意味が無いと思っている。
私に会うと不味い。
私の見舞い客に会うと不味い。
覚えていないから…って言うのは、父の仕事仲間だったと言えば済む話だし、そもそも病院にも来ないだろう。
今入ってこないとなると、私に会うと不味い…?それとも、よく来る誰かを警戒して?
よくこの病室を訪れるのは…安室さん…。
黒の組織の幹部と会うことを避けている、もしくは…安室透との接触を避けている…?
…考えていても始まらない。
来ないならこちらから…とドアを開いて外を見たが、その時既にその男の人はいなかった。
「あれ?どうしたんです、そんな入口に突っ立って…。」
「あ、安室さん…。」
「今日はポアロのケーキを持ってきたので、一緒に食べませんか。」
「…はい!」
私はある程度父の職業について察しはついている。
安室さんは父の良く口にしていた言葉を知っていたので父の知り合い…否、仕事仲間の線が濃厚だと見ている。
何故私を好きになったかは分からないけれど、私の暗殺を命令されて尚、ミステリートレインで私を眠らせ殺さなかった事。
宮野志保を殺さなかった事。
…それらを踏まえて推理すると、恐らく彼は…
…と、言うことは、先程病室の外にいた父の仕事仲間らしい男は…。
工藤、悪いけどこの件はまだ口に出せない。
多分君は自分で確信を得なければ納得しないだろうから…。
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