「手間を掛けさせないでよね。」
物陰に身を隠しやり過ごそうにもそんな小細工の通用する相手ではない。
どうこの場を凌ぐ…と考えていると「うう…」と私が気絶させた組織の男は目を覚ました。
ベルモットは拳銃の照準を私から外すと男に向き直った。
「あなた、こんな小娘につけられて、どう落とし前つけるつもり?」
「ああ、悪かった…だか、データは予定通りに…」
「あの子に取られてるわよ、あのデータ。…あなたがこんなに無能だったとは…。」
ベルモットはため息を吐くと銃を今度は男に突きつける。
「お、おい!何のつもりだ、ベルモット…!」
「失敗したら殺せとあの方から言われてるのよ。悪く思わないでね。」
バアン!
ベルモットは躊躇なく男の胸を撃ち抜いた。
私の額を冷や汗が伝う。
「仲間になんて事を…!」
「貴方には関係ないでしょう?」
男はまだ小さく呻き声をあげている。
どうやら急所は外しているようだ。
「さあ、止めね。」
「待て!撃つな!!」
「だから、この男が死のうと貴方には関係ない…それとも、貴方から先に死ぬ?」
辛うじて動く脚を引きずって男の前に出るとそんな私をベルモットが嘲笑った。
「何、敵を庇うつもり?」
「だったら何?こいつには色々聞かなきゃいけないことがあるんでね。」
「そんな男から得られる情報なんて知れてるわ。」
ベルモットはこちらへ近づきながら発砲する。
発砲した銃弾は私の腕や脚を掠めるが、急所を狙うつもりはどうやらないらしい。
今の発砲で男はどうやら気絶しているが、出血が多い、早く処置をしなければ命が危ういだろう。
…そういう私も危険な状態に変わりはないようだ。
血を流しすぎたのか、視界が白くなり始める。
体も思うように動かない。
ベルモットはついに私の目の前に来ると先程と同じように私のこめかみに拳銃を突き付けた。
「あなたこんな男を庇って死ぬなんて、本当に馬鹿みたいね。」
「どんな人間であろうと、死んでいい筈がない。この男は私が捕まえる…あんたもだ…ベルモット。」
「なるほどね、それが警察である両親が貴方に与えた正義感ってやつ?」
グリグリと銃口を押し付けるベルモットは尚も不敵な笑みを浮かべている。
「違う。」
「じゃあ何よ。」
「それは、強さ…人を許す強さ。」
「…!」
「どんな事も受け入れ、相手を受け止める…強さ。私が世界一優しくて強い人達に教えてもらった事…。」
やばい…そろそろ視界が完全に…
そう思っているとカチャ…と私のこめかみに当てられた拳銃が離れる音がした。
「やめた、あなたはまだ撃たない。…そっちの方が面白そうだし。」
「どういう…事?」
「そのままの意味よ。メモリーカードは撃ったお詫びにあなたにあげるわ…まああなたに読めるかどうかは分からないけれど。」
じゃ、また会いましょ。
そう言ってコツコツと靴を鳴らしながら、ベルモットは闇へと消えていった。
それと同時に私の意識も段々と薄れていく…最後に私の耳に届いたのは救急車の音と、私を必死に呼ぶ工藤の声…。
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