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この男…思ったより足が早い。
裏路地に逃げ込まれてしまったため、後は阿笠博士から貰った追跡メガネで発信機を追うことにした。

ターゲットが止まった事を確認すると、私はその辺に落ちていた鉄パイプを拾い上げ、路地の中へと消えていった。

イヤホンを耳に当て、発信機に内蔵されている盗聴器に耳を傾けると、何やら話し声が聞こえてくる。
私は佐藤刑事に位置を教えようと同時にスマホに手をかけた。



『…俺だ、例のデータは回収した。どうすればいい…ベルモット。』

「…!」

ベルモット、だと…!?
佐藤刑事へと送るつもりだったメール画面を閉じる。
確証はないが、まさか黒の組織絡みの事件だとは…
しかし、それなら犯人がゲーム好きでもないのにゲームを盗んだのも頷ける。
おそらくゲームのパッケージ内にメモリーカードでも仕込んであったんだろう。

後は送信ボタンを押すだけのこのメールの文面を少し付け足し、私はある人物宛に変更し、送信ボタンを押した。


『…何、お前が受け取りに来る?場所は?…わかった。』

追跡メガネでターゲットが動き出した事を確認すると、私も動き出す。

もしそれが本当に組織に関するデータならば、ベルモットの手に渡る前に私が奪わないと…。

ターゲットは目的地らしい路地のある場所に着くと、ライターを取り出し、タバコを吸い始める。
どうも、油断している今がチャンスらしい。

こそこそと忍び寄り、不意打ちに鉄パイプで殴り軽く気絶させると私は男のカバンから盗んだと思しきゲームを取り出し、中に入っていたメモリーカードをポケットにしまった。

このままベルモットと鉢合わせする前に逃げよう、そう思い腰を上げると、不意に後ろから声がかけられた。





「いやー、やっぱり赤崎さんに捜査を手伝って貰えば1発ですね!」


振り返ると高木刑事がそこにはいた。周りに佐藤刑事所か警察官すら見当たらない。

「どうやってここが…?」

「赤崎さんを走って追いかけて来たんじゃないですか!もう、速すぎますよ!」


「そうでしたか…。でも、高木刑事。」


「え?」


「高木刑事は2人きりだと私の事、三月って呼ぶんですよ。」



そう言うと私は近くに置いていた鉄パイプを拾い上げる。
ニヤリと笑って高木刑事をみると、少し驚いた顔の彼がそこにはいた。


「…なあに?貴方とこの刑事さん、そういう関係なの?」

「…まさか、ハッタリですよ。」

「大人を騙すなんて、悪いお嬢さんね。」


高木刑事…だった人物はそう言うと自身の顔に手を掛けベリ…と変装用のマスクを引き剥がした。


「先に騙したのはそっちですよね…初めまして、ベルモット。」

「あら、私を知ってるのね。」

「勿論。腐ったリンゴさん。」

「随分と言ってくれるじゃない。」

ベルモットはスーツに仕込んであった空気を抜きながら答える。

「何処で気付いたの?」

「私、この場所は警察には教えていませんから…。それに、サイレンの音も聞こえませんし、高木刑事が佐藤刑事と 別れて搜索する事はありませんから。」

「ふーん?最初からバレてたってわけ。…まあ、仕草や見た目で見破ったのでないのなら、構わないけど。」

「生憎、そこまで察しはよくないので。…それにしても聞いていたけれど随分と綺麗な素顔してるんですね、何か怪しい薬でも飲んだんですか?」

「ふふふ、褒め言葉だけ受け取ってあげる。…でも、そんな私になびかないあの男が、まさか貴方みたいなちんちくりんを選ぶなんてね。 」

「…ちんちくりんで悪かったですね…」

あの男…バーボンである安室さんの事だろうか、宮野志保=灰原哀だと知っているらしいベルモットならば、私が彼に気付いていると知っていても当然か…。

ベルモットは懐から拳銃を取り出し、私の方へ向けると不敵に笑った。


「その男から組織のデータを頂くだけだったんだけど、貴方、一応殺し損ねた人物だから、ついでに始末しようかしら。」

「いつから私が生き残った娘だと気づいていたんですか?」

「あなた最近控えめにしているけど、有名じゃない?そりゃあれだけバーボンと一緒にいれば気付くわよ。あなたの暗殺は彼に頼んだ筈なんだけど…彼、随分と貴方にご執心の様だから。」

「そうですか、それは知りませんでした。」

「じゃあ、大人しく死んで貰える?」


パアンと1発彼女が撃った弾丸を鉄パイプに当て、凌ぐと鉄パイプは綺麗にポッキリと折れてしまった。
怯んでいる隙に私に詰め寄ったベルモットはそのまま私のこめかみに銃を突き付けた。


「さよならね。」

「ねえ、なんで貴方、何で蘭や工藤に手を出さないの?」

「あら、そういう質問をしても、苦しいわよ?」

『ベルモット、その銃を下ろせ!!』

「…!?」


突然聞こえたコナンである工藤の声にベルモットは怯む。その隙に鉄パイプで彼女の胸を突く、ベルモットはぐっ、と肩を痛める素振りをするが、そのまま発砲されてしまう。
その弾丸は私の肩を貫く。

「うっ…!」

「どうやら貴方もクールガイの様に変声機を隠し持っているようね。もう騙されないわよ?」

「くっ…!」


肩は射抜かれたものの脚はまだ動く、走って逃げようと後ずさるも、それはベルモットの放つ弾丸によって阻止されてしまった。
恐らく、先程の鉄パイプで利き腕の肩はもう上がらないはず。
コントロールが乱れている中、太股を射抜いた弾丸に私は顔を歪め、地面へと崩れ去った。










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