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…に、しても問題は凶器か…店内を探しても手近な凶器は見当たらない。
うつ伏せで血を流して倒れていると言うことは、後ろから気付かれないように振り下ろせる程軽い、且つ頑丈なもので殴ったことになる…一体凶器はなんだ…。


丁度その時、容疑者の候補数人を佐藤刑事が連れてきたようで、早速事情聴取となった。

バイト店員に、列に並んでいたゲーム好きの客…どの人物も早朝から店の前にいた、という事が共通点だ。


「では、皆さん1度は列から出られたんですね?」

「ああ、トイレに行きたくなって…10分くらいかな?」

「他の列に並んでいた方も同じ理由で離れたんですね?店員さんは、どうされていたのですか?」

「わ、私は列の整備とトイレに行かれるお客様が戻ってこられるまで、列に戻れるように見張っていました。オープンになっても店長が出て来ないので心配になり店に入ると…」


死んでいた、という訳だったらしい。
おそらく店員は白。一度も離れていないなら犯行は不可能だ。


「あの、皆さんは今日何を買うために並ばれてたんですか?」


「…僕は今日出る携帯ゲームのソフトを…ジンの大冒険4ってやつ。」

「そうですか…では前作の3のラストで死んでしまったのは?」

「しゅ、主人公の親友だけど…」

「正解です。」


「三月ちゃん、急にどうしたの?ゲームのクイズなんて…」

「まあ、私もゲームは好きなので早朝に並んでまでゲームを買いに来た皆さんとは、話が合うと思って。」


そう、これが犯人を探し当てるための最大のヒント。
さあ、誰が犯人だ。

「じゃあ、あなたは何のゲームを?」

「私は最新の家庭ゲーム機と今日発売の、あのソフトを。」


始発で来て並んでいたという女性は店1面に貼ってあるポスターを指して言った。


「では、ハードも一緒に買うという事はあのゲームのお試し版はされてないんですね。」

「ええ、あのソフトの為にこのハードを買うから、お試し版はやってないなあ。」


「その隣のあなたは?」

「僕も彼女と同じものを。発売が発表された時から今日を心待ちにしていたんですよ!店頭に置いてあるお試し版も沢山やりましたし…。」

「…では、ご自宅で移植前のハードでは遊んでないんですね?」

「え?だから、僕はまだゲーム機を持っていないので、遊べないですよ?」

「ああ、そうですよね、すみません変なことを聞いて…」


全員に軽く質問をした後私は佐藤刑事に向き直ると「犯人がわかりました。」と告げる。


「え?今の何のゲームを買いに来たかの質問で?」

「はい。動機不明ですが、この推理で間違いありません。犯人は…私が最後に質問した、貴方です!」


私が指をさし見つめた彼は「今の変な質問で何で俺が犯人にされなきゃいけないんですか…!」と否認している。


「まず、撲殺した凶器、それは…店頭に設置してあるあの家庭用ゲーム機。」

「…!すぐに鑑識にルミノール反応を…!」

「待ってください佐藤刑事。でも、撲殺の凶器に使ったゲーム機はあれではありません。」

「どういう事?」

「犯人は、そのゲーム機を新品とすり替えたんですよ。そしてそれを買って回収しようとしていた。…だから、自分の指紋がべったりついていても可笑しくないように、店頭のゲーム機で沢山遊んだ事をアピールしたんですよね?」

「なるほど!確かに質問でもあのゲーム機を買うと言っていたし、店頭のゲーム機で遊んでたとも言ってましたね!!」

「それだけじゃないんです。…まず店頭に置いてあるあのゲーム機で、あの新作ゲームはまだ遊べません。それにあのゲームソフトは移植版なんです。」

「移植版…?と言うと。」

「ゲーム機で移植版と言えば既に発売されているゲームを別の機種に作り直して発売する事。別名マルチプラットフォーム。それに貴方が買うと言っていたソフトは移植版なんですよ。ゲーム好きなら知っていて当然。ですよね?」

「それを知らないからって…!」

「そう、知らない事こそが証拠。心理的にゲーム好きがゲームで人を殺害しないですよ、普通。」


そう告げると犯人である男は苦虫を潰したような顔をしてこちらや警察を見ている。


「では、教えてもらいましょうか。ゲーム好きでもない貴方が、何故店長を殺してまでゲームを盗んだのか…。」


私が歩み寄りながら問い詰めると、男は俯いていた顔を上げ、ニヤリと笑った。
何がおかしいんだ。

その時、男は急に走り出し、あろう事か店の外まで抜けていった。
くそ、逃がすまいと即座にボタンの裏に隠してあった発信機を男の身体に投げつけ、同じ方向へ私も走り出した。








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